<まちづくり分科会>・テーマ:「歴史と暮らしを活かした“まちづくり”」・日時:10月13日(土) 16時30分~18時15分・会場:土蔵造りのまち資料館・登壇者:コーディネーター篠田伸夫(日本フットパス振興協会 理事)パネリスト斎藤 睦(地域総合研究所 所長)石川 義憲((財)全国市町村振興協会 参与)般若 陽子(金屋町まちづくり協議会 会長)島 正範(路面電車と都市の未来を考える会・高岡 会長)●篠田コーディネーター「万葉線」に乗って始点から終点まで往復した。私が住む藤沢(神奈川県)は鎌倉とつなぐ「江ノ電」が有名で、廃止の危機に市民の声で復活、今では鎌倉の顔になっている。「万葉線」は富山の「江ノ電」までまだかなと思う。素晴らしい宝物を持ちながら生かしきれていない。「金屋町」は気品のあるまちで400年の歴史がある。お殿様にまだ愛着を持つ、お祭りを市民が大切にしているまち」―――と感想を述べつつ、“「歴史と暮らしを活かす」まちづくり分科会”の論議の方向を説明した。以下発言要約●般若 陽子さん 金屋町で若者達の騒ぎやゴミが目に付くようになって、清掃を目的にグループを結成した。せっかくだから、まちを案内してはどうか、自分達の言葉で案内するのも良いかな、と話し合ってガイドをするように。そのうち、千本格子の内側の生活を聞かれ家を開放するイベントや、「さまのこフェスタ・イン金屋町」を始めた。銅器や高岡の芸術家の作品を展示したり。 富山大学から、“金屋町をゾーンミュージアムとして美術館のまちにして、そのためには全国の若手作家を呼び込み、金屋町大賞を”というアドバイスをいただき、平成20年から「金屋町楽市inさまのこ」に発展して今に至っている。 ボランティアグループを始めたときに、7つの町に何があるか、鋳物に関してどういう事業があるかを調べて「金屋町七ヵ町やわやわ散策マップ」を作った。自分達がやりたいということではなく、活動を進めるうちに、もっと金屋町を理解してもらえないか、ということで発展してきた。 また、まちづくりの参考になるまちを毎年訪ねたり、自分達のまちに誇りを持てるようまちを理解するために鋳物のことや高岡市も含めたまちの歴史を勉強する「金屋学講座」も始めている。 今の一番の問題は、空家、お店が少ない、駐車場の不足といったことをどうするか。●島 正範さん 岡山市に通称RACDA「路面電車と未来を考える会」という市民活動がある。路面電車を切り口に、要望や批判でなく「自分達のまちは自分達はつくる。そのためには、体を使い、知恵も出す。できる範囲でお金も出して自分達で責任をとる」考え。それに共感し、名前もいただき平成10年4月に会を発足。 主な活動は「ラクダキャラバン」と銘打った「出前フォーラム」。市民が市民のところに行って、その地域のことを話合う。今日、「万葉線」の米島口駅で電車祭りが行われ、たくさんの親子で賑わっていた。いつなくなってもおかしくなかった「万葉線」がそうなったのもここから始まったと感じている。外国の路面電車ではストラスブールやポートランドが思い浮かぶ。そんなまちになるといいと思う。 会を立ち上げたときに反省したのは、私達は車に頼りがちだということ。「電車祭り」に家族で車に乗って来られる。そこの意識付けをしなければ、なかなか変わらないかなという気がしている。●石川 義憲さん 海外で地域づくりの研究をしたことがあるので、その視点を交えて話したい。一つは、リューベック。高岡に非常に似ている。バルト海、北海を中心に貿易で栄えた。有名なのは魚と塩。歴史遺産に登録されている。もう一つは、ドレスデン。マイセンの磁器で有名。アウグスト・フランツ二世は前田利長に匹敵する王様で、錬金術師のベトガーに有田焼のような磁器を作らせて出来たのがマイセンである。 注目したいのが韓国の安東(アンドン)。2010年に世界遺産に登録された。韓国は朝鮮戦争やセマウル運動で古い住宅を失い、高岡のようなまちはほとんど残っていないが、安東は古いまちを保存できた。これらのまちに共通して大事なことは、物語をもっているということ。高岡には大伴家持、前田利長や藤子・不二雄という物語がある。リューベックは王様が作ったまちだが、その後支えたのは商人。このリューベックのまちを克明に描いた作家がトーマス・マンです。北 杜夫の『楡家の人々』のモデルになった『ブッデンブローク家の人々』という小説が12世紀の商人の繁栄から没落までを描いている。そのおかげでまちがわかる。トーマス・マンの『ト-ニオ・クレーガー』は主人公の散歩の光景がいい。 リューベックを訪れる観光客は1000万人程度でそのうち宿泊者が100万人。注目したいのが、保存するだけでなく、生きているまちだということ。新しい発想を生かしたまちづくりもしている。例えば路地裏。リューベックのまちに滞在して魅力的なのが路地裏。そういう視点を持っていただきたい。●斎藤 睦さん まちづくりを活性化する大事な遺伝子は4つある。何を言われても夢中になってやれる「バカモノ」、既得権益やまちのしがらみがない「ワカモノ」。これは女性でも良い。結婚すれば違うまちでもやっていけるという柔軟な能力があるので、女性が担い手になるケースが多い。それから「ヨソモノ」。地域の人にとっては当たり前すぎてその価値に気づかないものを、ヨソモノが見つけて磨きをかけるケースが非常に多い。 現状に甘んじていると、新幹線が来ても、金沢に通り抜けられてしまう危険性がある。現在300万人以上の観光客が来ているというが、宿泊すると7倍のお金が落ちるそうだ。宿泊してもらわなければ地域の活性化にはつながらない。 いま墨田区の観光のお手伝いをしている。墨田は伝統産業の工場やお店がたくさんあるが、大きな資源がない。磨けば光る、文化が売りになるということで、まちの様々な生業を紹介するミニ・ミュージアムをたくさん作った。スカイ・ツリーもできた。 ここでの「ヨソモノ」は私達コンサルだが、「ワカモノ」は中小企業の2代目の若社長さん達だった。彼らが最初から手がけたのが4番目の遺伝子の「IT」。「IT」は現代的にモノを伝える技術。地域で作っているものがいかに魅力的で価値があるかを伝えるために、インターネット技術でどんどん情報発信した。そのことが、多くの人を集めているスカイ・ツリーを引っ張ってくる基礎になっていると思う。―――パネリストの意見が一巡したところでフロアとの意見の交換もあった。議論の多かったのは、路面電車、お土産など。路面電車については、篠田コーディネーターが、「江ノ電」と「万葉線」の駅の数、延長距離などいくつかの比較まで持ち出して論じた。提案として「江ノ電沿線カレンダー」「江ノ電新聞」があり、鎌倉の文化や古典を学べるアカデミーもある。「万葉線も、都市部から郊外に出て川を渡り、最後は海に出て、変化に富んでいる。そこをいま一歩・・」と。フロアの意見に「重要伝統的建造物群保存地区に指定され、県外のお客様達をお迎えする体制は・・」(高岡の女性)「高岡というまち全体の方向性やまちの一種の情感が、今ひとつ伝わってこない」(東京からの男性)など本格的課題も出た。締めくくりには「中心部が活性化しているまちは、祭りがある地域。高岡にはいろいろな祭りがみられる。山車も、まさに高岡の逸品を集めたもの。高岡でもできつつある山車の博物館は、高岡の大きな目玉になる、顔になる。皆さんの力を結集するものでないか」(石川さん)「高岡にもヨソモノから見て、どうして光らせないのかな、と思うものがたくさんある。宝の持ち腐れ病にならないように気を付けてください」(斎藤さん)など、貴重なアドバイスがいくつか出た。 “