日光・足尾分科会報告


「スローライフ・フォーラムin日光」の内容報告が遅くなりました。足尾分科会からご報告です。
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・2月10日(金)14:00~16:00 足尾公民館
・テーマ 「産業遺産と環境学習のまちづくり」
・参加者 50人
・パネリスト
神山勝次さん(足尾銅山の世界遺産登録を推進する会理事長)
山田 功さん(特定非営利法人足尾まるごと井戸端会議代表)
早野 透さん(桜美林大学教授)
川島正英さん(地域活性化研究所代表)
・コーディネーター
野口智子(ゆとり研究所)
・司会
長谷川八重さん(NPO法人スローライフ掛川)
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「わたらせ渓谷鐵道」に乗って通洞駅下車、この鉄道そのものが足尾銅山の貨物線だったもの、駅名からして産業遺産です。

足尾銅山跡をパネリストの山田さんのガイドで見学。バスから古い施設や、今進んでいる植樹の様子などが見えます。

山田さんの「私は小さいころ木や草がない環境で育ちました。山で遊んでも禿山ですから、親はいつも子供の姿が見えたようです」こんなリアルなお話が印象的です。

会場の足尾公民館では、昭和8年の足尾の様子が映像で流れていました。たいそうにぎわっていたのが分ります。まちにはこの頃の様子をうかがう、レトロな雰囲気がいまだ残ります。
パネりストからはそれぞれに、今後の足尾について提案がありました。会場からもたくさんの意見がありました。以下、そのご紹介です。

●パネリスト 神山勝次さん
足尾銅山は日本の近代化に大きく貢献した。そして公害を引き起こしたということで、光と影の二つを持つ。旧足尾町時代にエコミュージアム構想、全町博物館構想をつくった。こうしたことをもとに環境のまちづくりを進めていたときに、足尾銅山の産業遺産は世界遺産に匹敵するのではないか、登録した方がよいのではないか、という機運が高まった。そこで、2006年に足尾銅山の世界遺産登録を推進する会を設立した。鉱業の発展とそれに伴う環境破壊、それに対しての対策という視点から、世界的に極めて稀な事例。この産業遺産を活用して勉強をする、教材としてしっかりと発信をしていくということが私たちに与えられた仕事だ。今の若い人は鉱山のあるまちの暮らしなど分らない、それを知らせたい。各地で世界遺産の登録に向けて取組んでいるが、地域の活性化を起こすことは二の次で、足尾銅山の場合は、その歴史、そして産業遺産の整備・保存が、一番大事。それを見に来る人が大変多くなった、ということが地域の活性化につながっていく、それが世界遺産登録の基本だ。情報発信をし、一人でも多くのリピーターを増やしいきたい。

●山田 功さん
高校生になって足尾の外に出たとき、足尾出身といえなかった。公害という大きな十字架、タブーといっていいくらい、そのことについては誰も触れない。足尾銅山の歴史や過程で起きたことは、教科書で見るだけ。それくらい周りの人は語ろうとしなかった。そういう環境で育った。足尾のことを知らないという、非常に侘しい、悲しい思いをずっと持ち続け、心に刺のように刺さっていたため、まちでガイド養成講座ができたとき、真っ先に応募した。足尾の歴史、過去の経過にたくさん触れる機会を得た。知ること全てが真新しいことだった。公害のこともあるが、足尾銅山が世界で初めてとか、日本で初めてという、日本の産業の近代化の礎になった技術を生み出した、まさにこの足尾が日本の走りの場所だったということにも気づいた。それからの活動、今は足尾まるごと井戸端会議という名でいろいろやっている。足尾でさまざまな活動をしているグループが連携する組織もできた、地元での横の繋がりは大切。ここで根をはる、地元の人間の生活の糧が非常に限られているのが切実な問題だ。足尾ならではの産業というのが必ずあるはずで、そういうものを育て、若い人が定着できるようにしていきたい。

●早野 透さん
足尾は恐ろしいところ、と思っていたが実際来てみると、明るいところだった。ここの壮大な歴史ドラマを、発信できないかと思う。足尾銅山を作った古河市兵衛と、もう一方で、田中正造と。おそらく日本の歴史の中で田中正造の方が有名になっているが、二大人物がこの渡良瀬川の上流と下流にいたわけだ。この織りなすドラマというのはすごい。二人とも天保の生まれ。江戸の。その二人が明治という時代の中で、どのように大きく活動をしたのか、とてもすごい歴史だな、とつくづく思う。大規模な公害も出てしまった、木もなくなった。従って、緑の復元、それが世界遺産につながっていく大きなポイントだと思う。そういうふうに歴史と銅山と緑と世界遺産を一体化して大きく捉えなおすというのが、なんかわくわくすること、と思う。そこをこなし切った上に新しい足尾の物語をつくっていく。例えば佐渡の金山、石見の銀山、足尾の銅山、金銀銅で何かやれないか。新しい発想も、古い発想もかまわずいろんな事で知恵を絞っていくことだ。“国策民営”というやり方では原発も銅山も同じ。3.11以降の世の中で、福島と同じ問題を抱える足尾には今日的なものを感じた。

●川島正英さん
外との繋がりで考えていくと、課題として世界遺産の問題が一番大きい。二つのことを考えるべきじゃないか。ひとつは、光と影が強調されたが、運動として、何を狙いとするか、負の遺産といった言葉もあるが、何を訴えるか、外にいる人に見えてこないのが弱いのではないか。足尾は渡良瀬の紅葉と、カラミ(鉱山の産業廃棄物)と、それから植樹と三つの風景が印象に残る。そのどこに焦点を置くか、意味をもつ。二つめはどういう手法で実現していくか、大きな課題。世界遺産に認めてもらう活動で参考になるのはイギリス・スコットランドのニュー・ラナークの世界遺産がある。私は30年くらい前に行ったが、産業革命時代の紡績工場を残している。空想的社会主義というのか、ロバート・オウエンという理想的な経営者の足跡を世界遺産として登録した。これはイギリスではよく知られるシビック・トラストというまちづくりの手法をとった。市民が発想、専門家の意見を聞き絵まで描いてもらう、お金を集める、そしてその後に初めて、行政が出てきて法的やら問題があるところをやる。いま日光を見ていると、やっぱりなんとなく行政に頼ってると見えないでもない。物語が必要であるとすれば、まず市民の人たちが考え、そして市民が本気になって進めることだ。
◆地元の方からの発言◆

・17年前から荒廃した足尾銅山の禿山の緑を再生しようと、緑化に励んでいる。東京・神奈川・千葉・埼玉から日光への小学生・修学旅行生にちょっと1時間半くらいの時間をとって頂き植樹をする、ということで、現在13万本の木を植えることができた。(足尾に緑を育てる会・秋野さん)
・足尾の昔話を知っている方がまだ存命なうちに、後世に残していく事業を行っている。多分この足尾町でしか考えられないような笑い話、難しい話がある。それはよその方が聞いても、結構興味深いと思う。(足尾まるごと井戸端会議 神山さん)
・小山に住んでいるが、足尾に帰ってきた時は足尾歴史館でお客様と話をしている。最近の方々は、小学生でもかなり詳しく予習をし、高度な質問をする。勉強になる。(小山在住・高田さん)
・足尾は普通の一般的な田舎ではなく、森とか山とかの中に、急に大きな町が開けた感じですごく不思議な雰囲気がある。足尾にもともとあった文化的なもの例えば足尾紙などを活かして面白いことができれば。(地域おこし協力隊・天沼さん)

・足尾は産業がなくなって、物を売り出す力が無くなってしまった。土地も含めて。物を作るというのは、1があれば10を作るのはすごく簡単。足尾はそれが0に近くなっている。0から1を生み出すのは難しい。0から1を生み出すというところにおいては、美術や芸術は優れていると思う。(地域おこし協力隊・皆川さん)
◆外からの参加者も、それぞれ自分と結びつけたところからの発言が。
・天ぷら廃油を集め、燃料にする活動をしている。「東京油田」という言葉を見つけて発信しているが、このキャッチがすごいね、って皆にいわれる。例えば、こちらの町で「足尾油田」とかも考えられる。そういうキャッチフレーズはすごく大事。未来へ向けてのビジョンをしっかり出せると、人は
集まってくるものだ。今の若者は環境問題などに興味がある、そういう層に足尾からの発信を。(㈱ユーズ代表 染谷さん)

・若い世代が魅力を感じるのには、抜本的に発想を変えないと駄目。保全は大変意味がある活動だと思うが、それと平行して、「何もなくても良い」というこれまでとは違う価値感を持っている若者たちが、ここで暮らしたいと思うって何だろう、その辺を考えるといい。(東京工科大学教授 吉田さん)

・現地に来て、これだけ広大な公害の残存していた部分を見られた意味は大きい。私も、今福島、除染活動のモデル事業をやってるが、ここで仕掛けはたくさんできるのでないかと思う。ストーリーを作れば、すごく人の心に入るんじゃないか。フリーペーパーなども出すといい。レトロなまちも魅力的。(EDI代表取締役 塚本さん)
・20年くらい前に「山海塾」が大谷石の採石場の中で講演会というか演技をやって世界中から人を集めた。足尾の禿山、あそこへ映像を打ってみたらどうだろうか。例えば龍が昇っていくとか。建物に映像を映すことはあるが、山には、禿山以外にできない。急峻な山だから、きれいにできるのでは。(シンカンドゥ・岩崎さん)

●コーディネーター 野口智子さん
ここに来たかったけど来れないという、八王子にお住まいの女性からのメールが。彼女の息子さんが映画を製作する学校に通っているが、小学校の頃に足尾銅山に来た。その時に学んだことが彼の根っこになっている。このように足尾のポジションというのは、忙しい、忙しいと暮らしている私たちに、「何が人間にとって大事なのかをしっかり伝える」ことなのでは。この町全体が素晴しい教材だと思う。通えば通うほど身につけられる、つまり、スローライフが身につくようなそういう世界遺産観光地になる可能性があると思う。

分科会後、古民家を利用したカフェ「さんしょう家」で休憩。足尾の名物山椒入りのケーキなど味わいました。

国民宿舎かじか荘での「夜なべ談義」では、皆が次々とスピーチ。飲みながら、食べながら「レトロなまちの食べ歩きからはじめよう」とか「中高年向けのエコ学習ツアーをやろう」など話題が膨らみました。”