瓦版2025.4.22第733号増田寛也さんほかコラム多数

 何だか、あわただしい春です。連日、「米」の話題で持ち切りです。ひとつは「米価」。主食が高騰するなんて、どうなってしまっているのでしょう。備蓄米の供出で値がどれほど下がるのかに注目です。もう一つは「米国」。あの乱暴者との一番乗りの交渉を、世界は「モルモット」と見ているそうで、さて、どうなることやら。こちらも目が離せません。(写真は崖っぷちを飛ぶイソヒヨドリ Hira-san撮影)

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『緑と絆の木陰』

畠山重篤さんを悼む

  増田寛也 (スローライフの会共同代表)

 畠山重篤さんに初めてお会いしたのは、今から30年ほど前になるだろうか。宮城県気仙沼市唐桑の漁師さん達が、隣接する岩手県の室根山に、毎年、植林に来るという。そこで知事就任2年目の春、夫婦で室根山の「森は海の恋人植樹祭」に参加し、お会いしたのが最初だったと思う。

 気仙沼湾に注ぐ大川の源流域の山に広葉樹を植えれば、やがて成長して森の土に含まれる栄養分が川を通じて運ばれ、海に豊かさをもたらす。カキ養殖家の畠山さんはフランスのロワール川を視察し、河口付近の魚介類の多さと上流にある落葉樹の森林の関係に気仙沼湾再生のヒントを得る。これが「森は海の恋人」の運動につながり、その理念は全国に広がっていった。

 以前、赤潮被害に悩まされていた気仙沼湾は、畠山さん達の活動で見事に蘇った。畠山さんが養殖筏から吊り下がったロープをたぐり、手早く殻をはずして差し出したカキの何と美味しかった事。筏の上で語る海の話にいつも魅了された。

 畠山さんは名文家であり、エッセイストとしても数多くの書籍を著した。その奥深さとユーモアの数々。ここ数年お会いしていなかったので、そろそろお話を聞きたいと思っていた矢先の突然の訃報。森と海をつなげて考えるスケールの大きな発想と、人々を巻き込む力強い行動力。その持ち主の畠山さんにもう会えないと思うと本当に寂しい。改めてその存在感の大きさと数々の功績に心から敬意を表したい。

(前回、次は消えゆく街の書店の話を書きたいとしていたが、畠山さんの訃報に接し、内容を変更しました)

<あっちこっちで多事争論>

悪口から生まれる建築家の変節

  太田民夫 (神奈川県、スローライフの会会員)

 雲の上の図書館(高知県梼原町)を設計した隈研吾さんに会ったのは自ら設計したコンクリートづくりの建築物(写真)を報道陣へ公開した時だった。1991年のことで世の中はバブル崩壊の直前。小田急線千歳船橋駅近くの環状8号線沿いにある。自動車メーカーのマツダが都会の中に自動車のデザイン工房をつくるためM2と銘打って竣工した。外観の威容は巨大な柱が特徴であるイオニア式。隈さんにとっては初期の建物だ。近年、隈さんが手がけた国立競技場などとは全く設計思想が違う。

 M2が完成した直後、バブルがはじけ、バブル期に作った建築物は各方面から悪口が殺到する。M2も例外でなく、隈さんには悪口殺到で「落ち込んだ」とネット上で語っている。

 隈さんはこの悪口をバネにして、別の方向に行こうと決断した。完全なコンクリート建築物でなく木材を基調とした建築物への転換だ。これが梼原の建築物へつながっていく。

 この建物は2002年には葬儀会社に所有が移り、現在に至っている。同社によると「外観は建設当時のままです。隈さんの設計なので内外の建築関係者、建築雑誌などから毎年4、5件見学・取材の申し込みがあります」という。世間は変節の歴史ほど興味を持つようだ。

東京・砧にある葬儀場、東京メモリードホール。隈さんが初期に手がけた設計(メモリードグループの公式サイトから)

一歩を踏み出すおばあちゃん

  宇都野淳 (栃木県那須塩原市 スローライフの会会員)

 那須の山にも桜の便りが届き、満開を迎えている。桜を見上げ、スマホで写真を撮る年配の方の姿は可愛い。高齢者の交流の場として居場所づくりをお手伝いしており、先日、新しく立ち上げた居場所を訪問した。

 名前が面白く「哲学カフェ」という。参加者は退職後に田舎へ移住した方が多い。難しい話でもするのかと思いきや、テーマに沿って自分の思いを楽しそうに話している。ルールがあり、人の言うことに否定的態度をとらない。人の話をよく聞く。知識でなく経験に即して話す。発言せず聞いているだけでもよい、など。ハードルは低い。

ボーッとしていると私にも話の機会が回ってきた。話し始めて直ぐ、「初めて参加する」というおばあちゃんがやって来た。私の知り合いで2週間前に夫に先立たれた方だ。彼女も自分の家で居場所を立ち上げ、近所の高齢者などに元気を与えていた。しばらく居場所カフェはお休みすると聞いていた。参加の理由は、「夫を亡くして毎日が辛く、居場所を求めて哲学カフェに来た」とのことだった。

 みなさんが大きな拍手で彼女を迎えた。顔を上げた、おばあちゃんの一歩の踏み出しは格好良かった。近く、おばあちゃんのカフェが自宅の桜の木の下で再開する。

やまだのお池

  栗生尚子 (兵庫県宝塚市 スローライフの会会員)

 やまだのお池って何?

 生まれ育った東京・西荻窪にあった小さな池。膝下ほどの深さで澄んだ水の中、春にはオタマジャクシが泳ぎ、まわりには菜の花が咲き、当時は子供達の格好の寄り道の場所でした。今では住宅が建ち、面影もありません。

 ひょっとして、それは私の夢の中のことかとも思えたので、友人に「やまだのお池覚えてる」と聞くと、すぐさま「あったあった、やまだのお池」との答え。

 名前の由来も分からずにそう呼んでいた。私有地の中の池だったかもしれず、「立ち入り禁止」の看板もなく、自由に出入りしていたのも今では信じられない。パソコンもスマホも無く、子供達は外で自然に触れながら過ごしていた昭和の時代が懐かしい

 ちなみに現在の西荻窪は、住みたい街のトップ吉祥寺と荻窪に挟まれ、肩身の狭い感ありですが、これ以上再開発の波に呑まれないようにと願っています。

スローライフへの新たな芽生え

  中野修 (大阪府豊中市 スローライフの会会員)

 3月に長年勤務していた会社を退職しました。とても充実した職業人生でしたが、最後の1年ほどは、始業時刻にはじまり、終業時刻に帰路につく生活に少し窮屈さを感じることがありました

 もちろん、「時刻や時間」は、人々が行き交う日常において欠かすことのできない規範です。一方、「労働」の側面では、時刻や時間は契約によって定められ、「私」にとっては、契約を履行するために「私の外側から示された基準」と思うこともありました。これからは、同じ「時刻や時間」であっても、それは「私の内側から湧きだす自律的基準」として感じたいと思うようになりました。

 これは、私の中の新たな芽生えです。たとえば、今までの朝9時は「始業時刻」でしたが、これからは、私が自由に在る瞬間や場面にしたいと思います。

 自由とは、自らが由(よ)って来るところ……。それは、己(おのれ)そのものであり、かつ他者が存在しなければ成り立たないものなのです。

 スローライフへの旅が続きます。

そろそろスローライフを

  南條青志 (和歌山県紀の川市 スローライフの会会員)

 昨年の夏、末っ子の中学野球がひと段落。10月の人間ドックまでに数値を良くしようとダイエットをしました。目標は1週間で1キロ。10キロ以上体重を減らして、少しは良くなっただろうと自信満々に臨みました。

 しかし、ドックのお医者さんからは「あなた去年、病院でちゃんと診てもらうように言いましたよね。もう知りませんよ!」と、ぴしゃり。長年の身勝手な生活で、どうやら随分と腎臓がお疲れだったようです。結局、大きな病院で腎臓の細胞をとって精密検査をしました。

 10年以上前に、スローライフと出会いました。それからというもの、心豊かに緩急自在に、と頭ではわかってはいるものの、現実はやりたいことが多すぎて、仕事もプライベートも急、急、急……。おまけに腎臓まできゅうきゅう鳴いていたとは……。大きな病気でなかったのは良かったのですが。でもそろそろ、ちゃんとスローライフを実践していこうと思います。

4月15日の「さんか・さろん」 「ゆすはら 雲の上の図書館」に、たくさんの感想が届きました(一部抜粋)。

・図書館ブームの到来を実感しました。兵庫県W

・配慮の行き届いた、住民のための素晴らしい働きを担われて志のある方だと納得。継続していかれるために、勤務時間を含めて無理の少ない運営にされることも大切かとも感じました。応援をかねて是非寄らせていただきたい場所です。岡山県H

・フォーラムに参加できず残念でしたが、梼原町に是非行きたいと思っています。雲の上の図書館も勿論、見たり感じたりする場所が沢山あり、宿泊施設もチェックしました。町の中の移動手段はどうなっているのか気になります。兵庫県K

・好きな言葉に、「風土は風の人(外から来た人)と土の人(その土地に昔から住んでいる人)とで作られるものだ」というのがあります。風の人(隈研吾建築事務所やスピーカーの木稲さんたち)がその土地に新しい風を吹かし、土地の魅力を引き出し、土の人(ゆすはらのひとたち)が経験やアイディアを出し合って協働して町を良くしていく理想形ですよね。中村先生の「わたくし、大きいのは嫌です」という言葉の通り、これからは、小さく、少なく、ゆっくりなところにこそ宝があるのかもしれないと、うれしくなりました。東京都M

『スローライフ曼荼羅』

この指とまれ

  野口智子 (ゆとり研究所、スローライフの会共同代表)

 住民参加の場面で、「新しい人材を発掘したい」「いつも同じメンバーで困る」「多様な人の発想がほしい」という主催側の悩みや希望をよく伺います。聞くと、従来組織を使って、その役員に連絡を流している。それでは同じメンバーになります。しかもその役員が声掛けできないタイプの人では、輪は広がりません。従来の清らかな縦の流れは重んじながらも、「興味ある人集まれ〜」という呼びかけ方が必要です。この指止まれ型の人の集め方に挑戦しましょう。https://noguchi-tomoko.com/post-10781/

■■つべ小部屋■■

公務員離れの本当の理由(わけ)

  つぼいゆづる (スローライフ瓦版編集長)

 国家公務員の志望者は総合職、一般職とも10 年前と比べて約3割減っている。勤続10年未満で退職する総合職は、2023年度には10年前の3倍を超す203人に達した。

 こんな「公務員離れ」に、どう歯止めをかけるかを議論してきた人事院の有識者会議が3月に最終提言をまとめた。①霞が関の本府省職員の給与は「少なくとも1000人以上の企業」と比較すべきだ②転勤手当の支給や転勤の可能性の低い採用の枠組みの導入を、といった提言が目を引く。

 要するに、民間の大企業に比べて見劣りする給与水準を上げつつ、柔軟な働き方も取り入れることで人気回復を図ろうというわけだ。だが、どこまで実効性はあるのだろうか。せいぜい、やらぬよりはまし程度ではないか。

 そう思うのは、最近の国家公務員の不人気の大きな理由として、あの「もり・かけ」(森友・加計)問題が世の人々に強烈に印象づけた、霞が関の「忖度」の風土への忌避感があると考えるからだ。公文書を破棄、改ざんした上に、公開も拒んで、人事権を握る政治家にこびへつらう姿は、あまりに格好が悪かった。自分の子どもに、理由を説明できないような行動をとって逃げまくる無様さは見るに堪えなかった。

 民間会社にも似たり寄ったりの実態はあるに違いない。だが、「公を担う覚悟」を求められる公務員だからこそ果たすべき職責というものがある。それを忘れた、いや、あえて投げ捨てたような集団の仲間になろうという人が減るのは当然というほかない。

 余談ながら、国ではなく地方公務員の話ではあるが、あの兵庫県では今年度新規採用した4月の総合事務職(大卒程度)150人のうちの半数近く、実に69人が辞退した事実を付言しておく。

<編集室便り>

▽会費の季節です。

スローライフの会会員の皆様、新年度の会費をお待ちしております。今まで会員でなかった方も、4月からはぜひお仲間になってください。

〇会費

年会費 5,000円(年度区切り4月~3月)途中入会でも同じ値段です。

※一口5,000円です。何口ご入金でも、ありがたいです。

※「さんか・さろん」の年会費は別途、3,000円です。

【振込先】

ゆうちょ銀行 振替口座 00190-4-595293  スローライフの会

※他金融機関からのお振込みの場合は

店名:〇一九(ゼロイチキュウ)店、預金種目:当座

口座番号:0595293 スローライフの会 まで。

〇会員になると

①参加費割引があります

勉強会「さんか・さろん」(毎月第3火曜日)の参加費が会員価格となります。

参加しほうだいの年会費は3,000円ですが、一回1,000円(会員外は2,000円)でも参加できます。

②メルマガ「スローライフ瓦版」に投稿できます

メールマガジン(第2、第4火曜日配信)にお知らせ記事やエッセイ、写真を何度でも掲載できます。

③過去の記録を見られます

フォーラム、勉強会などの記録を見ることができます。

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〒160-0022 東京都新宿区新宿2丁目12番13号

新宿アントレサロンビル2階「スローライフの会」

メール slowlifej@nifty.com 電話090-7433-1741(野口)

※ご連絡はなるべくメールでお願いします。

※活動詳細はホームページからご覧ください。

http://www.slowlife-japan.jp/