この瓦版が届くのは衆院選の投開票日の5日前です。街頭で候補者を見かけても、新聞やテレビの選挙報道をチェックしても、いまひとつピンとこない。だからまだ誰に入れるか決めかねている。そんな方は報道各社のHPにある「ボートマッチ」を、ぜひ試してみませんか。朝日、毎日、読売、NHKなどで地元選挙区の投票先をさくさくっと探せますよ。
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『緑と絆の木陰』
大焦熱地獄
神野直彦 (東京大学名誉教授)
運転免許を返上すると、想定外の苦難に襲われた。私の居住地域ではタクシーの台数が三分の一に減少し、スマホをもっていない私には、利用不能の状態になってしまっていた。そうなると、移動手段はもっぱら自転車に依存することになる。
緑の微風に吹かれてのサイクリングは快適である。ところが、今年の夏の暑さは異様だった。私は悪業(あくごう)を重ねたつもりはないけれども、八大地獄の一つである「大焦熱地獄」のなかを、自転車で走り回るという責め苦を受けることになってしまったのである。
母が入所している施設まで、自宅から自転車で20分ほどの距離である。したがって、額から滴る汗が、目に入る頃に施設に到着する。母が食事をとらなくなり、点滴も外して、いわゆる「看取り」状態になってから、1年半にもなる。食事をとらなかった母は、私が果物をもっていき食べさせると、食事をとるようになる。そのため果物とともに、頻繁に母を訪ねることが、私の日常となっている。
自転車に積んであった保冷した果物を抱えて、母の部屋に行けば母は「直彦」と私を呼んで、満面に笑みを浮かべる。この笑顔に出会うために、私は生まれてこの方、母のもとに帰ろうとしてきた。というよりも、母と一体であった私は、母から離れて人間的存在になったにすぎない。つまり、私と母は「第一次的絆」で結ばれているのである。
母はもってきた果物をすべて平らげてしまう。母に別離を告げると、悲しげな微笑みを繕いながら、「ありがとう、ありがとう」と繰り返す。ベッドに起き上がり、いつまでも手を振る母のもとを離れ、私はまた「大焦熱地獄」に戻っていく。しかし、不思議なことに母に会うと、「大焦熱地獄」にも爽やかで快い風が吹き始めるのである。
<あっちこっちで多事争論>
道草とスローライフ
小室浩幸 (長野市 朝日新聞長野総局長)
今年春から長野市で単身赴任で暮らしている。職場での「ストレスチェック」の診断結果が劇的に改善していたことに驚いた。夏でも朝夕は冷房に頼らず、夏バテと縁なく秋を迎えられた。信州暮らしに憧れる人が多いことにも納得する。
日々を穏やかに過ごせるのは、気候とともに、寄り道の効用もあるように思う。新しい職場では気を遣うし、慣れない地では緊張も伴う。だから県内各地を回るときには、ひと休みの時間を大切にしている。
初夏に北信の道の駅に立ち寄ると採集者の名前が記されたネマガリダケ(根曲がり竹)に出会う。入山させてもらいタケノコ狩りに汗をかいた。晩夏に訪れた中信のコンビニでは、近所の兼業農家から届いたばかりのシャインマスカットを楽しむ。総選挙期間中に訪れた南信ではつややかな橙色の実が各戸で鈴なりだった。干し柿の季節が待ち遠しい。
自宅と職場の往復を繰り返していた東京とは大違いだ。
先日ふと立ち寄った安曇野の美術館で、生物学者の鷲谷いづみさんが「道草」について解説した文章に出会った。
「道草」は動物が道端の草を食べる行為であり、一見目的地に到着するのを遅らせるように見えるが、実は無駄ではない。体力を回復して、遠い道のりも足取り軽く歩んで行ける、といったことが記されていた。
仕事中の「寄り道」には時々気が咎めることもあったが、私が続けているのは「道草」なのだと考えるようになった。東京では「スローライフ」に憧れる名ばかり会員だったが、信州では自信をもって、ゆっくり、ゆったり、地域を楽しんでゆこう。
下の写真は「道草」で寄った八島ケ原湿原(長野県下諏訪町)
気が付けばつながって
武南千賀子 (大阪府堺市、社会福祉法人野のちから理事長)
いま、大切にしていることを三つ紹介します。
一つ目は20年間続いている機関誌「野のちから」。毎月10日に20ページの新聞を発行しています。チョキチョキ記事を切って貼り、カットも自分で描く超アナログなものですが、沢山の方が投稿して下さるので、仕事が忙しいからと発行を遅らせるなどできません。仕事の合間に記事を書き、また仕事の合間に編集をしながら楽しんで作っています。
二つ目は、「風の学校」。学びながらしゃべりあえる場、何かあれば助け合える関係を地域に築くことをめざし、毎回テーマを決めて学習します。参加者は30名から40名。今回は「気候危機」。いつの間にか20回を超えて、気が付けばみんなで賢くなっている気がします。
三つ目は「風の贈り物」。コロナ禍に始めた食糧支援の名称です。かわいい倉庫に食料を入れて、困難な方に「困ったときはお互い様」を実践しています。子供さんにはお菓子も添えて。物価が上がって持ち出しが大変ですが、「こんな時こそ支援を」の気持です。
スローな山旅で自分だけの「時」を感じる
中野修 (大阪府豊中市 スローライフの会会員)
今夏、北アルプス立山連峰に向かいました。北陸新幹線をはじめ便利な交通機関で標高2,500m近くの登山口までは素早くアクセスできます。ここから頂上までは500mほど登るだけですが、自称「地図愛好家」のスローな旅では、草花を愛で、風の音を聞き、地図を広げては山々を眺めるので歩が進みません。
立山に連なる薬師岳、浄土山、弥陀ヶ原、大日岳などの名称から、山岳信仰の深さを感じます。ゆっくりと山行を楽しみ、一日目は中腹の山小屋で満天の星に抱かれて眠りました。
二日目は爽やかな目覚めとともに、朝焼けに映える峰々を地図で確認しながら自分の歩調で登りはじめます。ようやくたどり着いた頂上からの景色(下の写真)は私にとって「出会いの時」です。とりわけ、今までに訪れたアルプスの山々が目に飛び込む時、旧友と再会したような歓びを感じます。
「時」は悠久無限であるがゆえに、人々は暮らしの共通認識として「1日」や「1時間」など、時に区切りを設けたのかもしれません。しかし、私のスローな山旅では、誰かに区切られることのない自分だけの「時」を感じるのです。
集まる場所は必要だ
岩崎久美子 (東京都 スローライフの会会員)
この春にジャックラッセル・テリアの子犬を迎えた。ある日、自転車のかごに乗せ、朝早く近くの都立公園に出かけた。階段を降りて公園に着いたところ、どこからとなく、「1、2、3、4…5、6、7、8」と大きなかけ声が聞こえてくる。その声に引き寄せられてたどり着くと、多くの人が号令に従って身体を動かしている。(下の写真)
これは肩こり解消に良さそうと、犬をつないで隅っこで見よう見まねに参加した。終わって看板を見たところ、ボランティアの世話人のもと5時50分から6時20分に行われているデンマーク体操というものらしい。自由参加、無料とあったので、翌日から参加することにした。
オンラインでの仕事が増え、めっきり人と会うことも少なくなった。そんな中で、「おはようございます」と挨拶をし合い、自然の中で一緒に身体を動かすのはスピリチュアルな体験でもある。人とつがることを欲しながらも、面倒な人間関係もなぁと思っていたところ、このような場に自由に参加できるのは楽しく心地よい。世話人の存在、集まる場所、自由な参加形態…それがポイントかもしれない。
人間関係が希薄な都会にあって、心が満たされる時間である。
揺れた伝統の村祭り
宇都野淳 (栃木県那須塩原市 スローライフの会会員)
地元の嶽山箒根(たけさんほうきね)神社には、村(下の宮)と標高1000mの山(奥宮)に2つの神社があり、今年も11月23日に伝統的な梵天祭りが開催される。歴史は古く、市の無形民族文化財にも指定されている。8mの大竹を根ごと掘り出して飾り付けした梵天を男衆が担いで村を練り歩き、神社前で力強く地面に叩きつけて割る。実に勇壮な祭りだ。
以前は、4時間歩いて梵天を奥宮に奉納したが、今は車で運ぶ。2つの神社では村人が当番で茶屋を設け参拝者をもてなした。奥宮には電気も水道も無いが3日間寝泊まりして用意した。採りたて野菜で作った「けんちん」や「煮物」は格別にうまかった。
高齢化と過疎化で、祭りを盛り上げる若者が少なくなったため、奥宮の茶屋は数年前に活動をやめた。そして昨年、下の宮の茶屋の存続が話し合われ、廃止が決まった。賛否で村が割れたが、どちらにも言い分がある。祭りの大切さは皆同じだが、その準備や資金集めには相当な労力が要る。だから達成感があるが現実は厳しい。
地域を元気にするはずの祭りが、村人にしこりを残した。伝統とは何か、村は新たな課題を背負いながら祭りは続く。自慢の「けんちん」は無いが、担ぎ手の声に元気をもらい、恵みの秋を感じたい。
豊かになる時間
笠原俊典 (滋賀県長浜市 持専寺)
若者から先日、こんな話を聞いた。「マインドフルネスというベトナム仏教由来の教えがあり、我々の信仰生活にも気づきとなることがあるのではないか。それは一日15分程度の読経(瞑想)の時間を持つだけで人生は豊かなものになるということ。意味がわかる/わからないは全く関係なくて、唯おつとめすることが豊かになる秘訣である」
考えてみれば、我々はとても忙しい日常を生きているのではないか。その殆どが何かを得るために、競争して、追い求めて、疲弊しているようなものである。確かにそこから離れることができるのは有難い。仏教に限らず、カトリックのフランシスコ教皇も「黙想とは、いわば、人生の中で立ちどまり、一息つくことです」とその意味に触れている。また、ハワイのある医療機関では繁忙な医療者に“Tea for the Soul”という一服の清涼剤が施されている。
どうだろう? 日常から離れて、仏前に座る習慣を持ってみませんか。
大谷翔平選手の功罪 (上)
児玉征也(和歌山県紀の川市、NPO法人紀州粉河まちづくり塾代表)
こんなタイトルを掲げるだけで今や炎上しかねないほどの絶大な人気を誇る日本、否、世界のヒーローについてのスローライフ雑感。まず「功」について。スローな生活に好むと好まざるとに関わらず突入した男性の後期高齢者の生きがい話を二つ。
第1話。私が通う夕方のジムでのこと、面識はあるが話をしたことがないおじさんがロッカールームに現れて突然話し出す。「今日の試合よかったなあ、また打ったわ」。そうですか良かったですね、と相槌を打つと、興奮冷めやらないおじさんは観てきたばかりの試合内容を詳細に話し出す。その嬉々とした話しに共感しつつも手に負えなくなる。
第2話。当事務所に来られて用事を済ませて帰る間際の大先輩が、「Wi-Fi使えるかな?」。大丈夫ですよ。どうするんですかと返すと、「今、9回のはず、ええとこなんで、ちょっとスマホ見てから帰る」。勝った勝ったと大喜びで帰途に。
行き場が少なくなった後期高齢者のスローでロンリーな生活に、どれほど彩りを添えているか、大谷選手は知っているだろうか。日本時間の朝や昼にやっているのが絶妙で、興奮冷めやらないその日のうちに誰かを捕まえて話したいのだ。
大きなジレンマ AIに相次ぎノーベル賞
太田民夫(神奈川県川崎市、スローライフの会会員)
2024年のノーベル物理学賞、化学賞はいずれもAI(人工知能)関連技術を対象とし、AI研究・開発の社会的インパクトを評価した。2022年秋に登場した生成AIは産業革命以来の発明といわれ、またたくまに世界中に普及した。
筆者はある研究会で「新聞などの世論調査では少数派意見だが、ネット世論では多数派に変質する」という趣旨の書籍をもとに話したことがある。その際、筆者自身がネット世論を自ら調べようと思い、生成AI(無料版)に問うたところ、的確なやり方とそれを実現するプログラムをつくってくれた。AIが大衆の指先にあるという革命だ。
一方、日本経済新聞の10月10日付朝刊は、ノーベル化学賞受賞の記事とほぼ同じ扱いで、「グーグル分割選択肢」の見出しで、米司法省がグーグルの独占解消に向けた措置の枠組み案を連邦地方裁判所に提出した、と報じた。今回の2つのノーベル賞受賞者それぞれにグーグル関係者が含まれている。同社は検索エンジンと広告ビジネスと結び付けたビジネスモデルにAI機能を強化する戦略をとっている。
AIの社会的評価と巨大テック企業を分割することでAIの開発・進歩に影響が出るのか。
人類は大きなジレンマに直面している。
『スローライフ曼荼羅』
奉射
野口智子 ゆとり研究所
「ほうしゃ」ではなく「ぶしゃ」と読むらしい。京都府綾部市志賀郷地区にある「阿須須伎(あすすき)神社」で拝見しました。「大弓神事」という、祭で奉納する弓。伝統や文化財的知識のない私には、ただただ神社の早朝の空気が清々しい。普段、お疲れ気味の地域の高齢男性たちが、射手として所作美しく、凛々しく見える。地元の見物客が「面白い行事やろ~」と自慢げ。私も、こころ射抜かれた朝でした。https://noguchi-tomoko.com/?p=10551&preview=true
つべ小部屋
あれれ、自民党への「追い風」が
つぼいゆづる (スローライフ瓦版編集長)
石破首相が就任から戦後最短で解散・総選挙に打って出たことで、やれ「総裁選での発言を翻した嘘つき」だの、「国民に選挙の判断材料を与えないのは民主主義の大原則を否定している」だのと批判されている。裏金や旧統一教会問題での自民党への逆風をあおる格好だ。
だが選挙情勢を見渡せば、野党が競合して共倒れし、ちゃっかり自民が勝ち抜けそうな小選挙区が数多くある。野党がせっせと吹かす「反自民の風」が結果として「自民への追い風」になりそうなのだ。あの裏金印も、あの旧統一教会印も「みそぎを済ませた」という顔で国会に戻ってくる情景が目に浮かぶ。
野党共闘による与野党一騎打ちを恐れ、野党がバラバラのうちに選挙を急ぐのは自民党の常とう手段だ。それなのに野党は何をしていたのだろう。結局、289小選挙区のうち事実上の与野党一騎打ちは44選挙区しかない。3年前の前回より100以上も減った。裏金議員の46選挙区での一騎打ちは6つだけだ。比例代表制が野党に遠心力を働かせるのは必定とはいえ、政権選択選挙がこのざまでは有権者は戸惑うばかりだ。個人的には悲しく、むなしく、腹立たしい。
昨年4月の衆院千葉5区補選を思い出す。自民議員がパーティー裏金事件で失った議席を、自民が5万票で死守した。野党は立憲4万5千、国民民主2万5千、維新2万3千、共産1万2千票あり、合計すれば自民の2倍を超えていた。今回も、こうした野党が死票の山を築く選挙区がいくつも生まれるに違いない。
ことし7月、フランス下院の決選投票では右翼「国民連合(RN)」が議会第1勢力になるのを阻止するため、水と油といわれた与党連合と左派の政党連合「新人民戦線」が計200人以上の候補者を撤退させて、「反RN票」の一本化を図り、奏功した。お国事情も選挙制度も違うので、言うても詮無いことなれど、少し羨ましかった。
<編集室便り>
▽次号は11月19日
次号は「スローライフ・フォーラムinゆすはら」の開催に伴い、第2火曜(11月12日)ではなく、第3火曜(19日)に配信し、「ゆすはら特集」を設けます。参加者のみなさま、奮ってご投稿ください。
▽華岡青洲について学びました。
10月15日の「さんか・さろん」(144回)は、 タイトル:「世界の医聖華岡青洲 世のため!人のため!地域のため!」講 師:神徳政幸さん(一般財団法人青洲の里 代表理事 和歌山県紀の川市)でした。報告はこちらから。YouTubeも載っています。
https://www.slowlife-japan.jp/2024/10/19/%ef%bd%93-324/
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