5月「さんか・さろん」神谷由紀子さんのスピーチ

5月のさろんゲストは “まちづくり型フットパス(快適な歩く道)観光のモデルを創り出した神谷由紀子さん。「歩くこと」から始まるスローなまちづくりの実践に、熱気あふれるさろんとなりました。
◆「フットパスで観光(まち)づくり」
◆神谷由紀子さん(NPO法人「みどりのゆび」事務局長)
=スピーチ要約=
■「歩くこと」の力を発見
私たちは多摩丘陵の小野路を中心に緑地保全活動をしていましたが、緑の問題は税や土地制度など根が深く、試行錯誤の末に見つけたのがフットパスという手法です。
20年ほど前に大きな区画整理事業が始まり、マスタープランへの参加など様々なことをしましたが、中でも多くの方の心に訴えたのは、緑の中をご案内して歩いていただくことだったんです。
緑の中を歩いていて急に開発現場が現れると、どんな方にも緑がなぜ大切かをわかっていただける。
もともとは母に「ヨーロッパには良い道がある。これからは、いい道がある所で生活したい。鶴川には良い所があるんだから、マップをつくって皆さんをご案内したら」と言われたことがきっかけでした。
普段は車で走っているところを歩くということが新鮮で、大変な評判にもなりました。
■フットパスが地域の価値観を変える
フットパスは地元にも良い効果がありました。「フットパスまつり」は小野路の道を歩いた後に地元の食事を食べてもらう、100人が集まるイベントです。来た人皆が地域を褒めて下さる。
すると、地元の人にとっては「当たり前」、「自分たちは取り残された」と思っていた場所が、もしかしたら「良い所」かもしれないと思い始めたのです。
その上、台所に眠っていたゴマや梅干、切干、お饅頭がお金になる、ということも地元のお母さん達にとっては大きな発見でした。 お母さん達が元気になると、お父さん達も元気になり、皆が小野路の宿をきちんとしよう、とまちづくりが始まりました。たった1年ほどのことです。
地域の人達がやる気になるのがまちづくり。それを目の当たりにしました。フットパスによって都市住民を引き入れリピーターをつくる。リピーターが来ることによって地元の価値観に変化が生まれる。それを基盤としたまちづくりが始まったわけです。
■フットパスでつくる未来
「フットパス」でわかっていただきたいことは、誰でもどこの町ででもできるということです。皆様の周りにフットパスがある。自分の心で見て自分のフットパスを発見すると、自分が住んでいる所が一番いいなぁ、と思っていただけるはずです。
日本全国の方にそうと思っていただけると、日本全体が底上げすると思っています。フットパスは、成長はいいからもう少し地に足の着いた人間らしい生活をしたい、という多くの人が描いている日本の未来像に近いのではないでしょうか。
イギリスでは、フットパスで年間8000億円の収益と24万人の正規雇用を生んでいます。
エコツーリズムでもお金を生む。小さくても地元にお金が落ちる仕組みをつくることで、若い人や都市住民が地に足の着いた人間らしい生活を送れる雇用や環境をつくりたいし、子ども達に豊かな社会を残したいですね。〔2011年5月17日開催〕