瓦版2025.7.8 第738号  会員投稿がいろいろ

 列島は南から続々と梅雨が明けています。早すぎる真夏の到来に戸惑ったり、うんざりしたり。田んぼの稲が酷暑に負けてしまわないか、野菜は育つか、ことしは熱帯夜がどのくらい続くのか、と思うだけで汗が出ます。読者のみなさまから、「私の暑さ対策」とか「こんな涼み方あります」といった心地いいご投稿をお待ちします。

*写真はボコボコと音を立てる炭酸泉に歓声をあげる事務局・野口智子さん(右)と会員・坂田啓子さん=10月にスローライフ・フォーラムを催す長崎県雲仙市で、7月3日、つぼい写す。

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『緑と絆の木陰』

EXPO2025

  室﨑千重 (奈良女子大学准教授)

 大阪万博2025には賛否両論があります。1970年の大阪万博をリアルに知らない私にとって、日本で万博を見るのは最初で最後と思い、先日行ってきました。この資金を使うべき他の多くのことがあるとの思いはあるものの、世界の広さ、建築の力、そして突っ走る開発の時代を経て自然や文化や人間に世界は目を向けつつある一端を感じる機会になり、行ってよかったです。

 大型映像展示が溢れる中で、生身の人の持つ力を魅せることに振り切ったパビリオンが印象的でした。女性一人が歌うハンガリー館と後述する河瀬直美さんの「いのちのあかし」パビリオンです。「いのち」は、参加者の誰かが登壇者となって行う対話をみんなが聞くもので、人の生き方の一部を覗かせてもらいつつ自分のことを振り返るような体験でした。もう一度、人間を見つめ直してみないか、という問いかけなのかもしれません。

 パビリオン建築では、1970年の映像で感じるワクワクよりは見劣りする部分は否めないですが、リノベーションや万博後の活用の提案があるのが2025年的建築でしょうか。見たかった一つが河瀬直美さんのパビリオンで、廃校や校庭の樹木を移築・移植して、新たな空間としてつくられています。そして、そして! 廃校の一つに奈良県十津川村の折立小学校・中学校も使われています。天井がとられて綺麗な骨組みが映える、新築パビリオンに負けない場所ができています。ぜひ行かれたらチェックしてみてください。

 たくさんの国が入るコモンズという建物では、初めて聞く国名がたくさん。情報が溢れる時代、なんでも知れる気になっているだけで、実際は知らない世界がまだまだあることを思い出しました。最近、海外に行きたい(旅行も含めて)学生さんは驚くほど少ないのですが、若い人こそ1回は万博に行って、ネットで得られる情報・映像とは違うリアルな世界につながるきっかけを得てもらえるといいなと思います。

*写真は十津川村の旧折立小学校

<あっちこっちで多事争論>

最後のチャンス〜子どもたちへ「味」を伝える〜 

  村井康人 (新潟市 REBIRTH食育研究所) 

 生活習慣病がまだ成人病と呼ばれていた1980年代、血液検査の導入に従事し、全国の病院の検査室に通い詰めていました。必然的に、「死」と向き合うことも多く、それが予防医学と食生活の改善に取り組むきっかけとなりました。

 水上勉は『土を喰う日々』で、味について次のようなことを書いています。

 ――ふつうは甘、鹹(塩)、酸、苦、渋の五味だが、中村幸平著『日本料理の奥義』は「後味」を加え、「料理には六味の味があってこそ完全な味」だと説いている。後味とは「食べたあとまた食べたくなるあと味」のこと。そういう心理的なものも加味されてあることに感心した。(略)もう一度食べたいと、惜しげにフタをするのでなければ、その作品は、常備菜としては不合格なのである。――

 いま、小学生が対象の食育「味覚の授業」はフランスの味覚教育がモデルで、甘味、塩味・酸味・苦味・うま味の五味を学びます。しかし『日本料理の奥義』のいうように、日本食の味には、渋味に加えて、後味という心理的な要素も欠かせません。

 代々味わってきた日本人の味覚を、かろうじて伝えられるのは今の大人しかいません。特に団塊の世代以上の大人は、子供の頃に親しんだ味を今こそ子どもに伝えられる最後のチャンスだと思います。料理を作る、小さな畑を始める、伝統的な料理を子どもたちが食べる機会を作る。できることはたくさんあります。

 新潟のある「こども食堂」では、おばあちゃんたちが家庭料理を提供しています。「懐かしい味ですね。でも作り方がわからなくて、家では食べたことがありません」と言う保護者と子どもたちが頬張っている姿をみると、まだ間に合うと思えるのです。

 

ペナンよさこい報告

  川竹大輔 (高知大学理事特別補佐)

 東南アジアのマレーシア北部・ペナンで1千人を超える規模で、「よさこい」をやっていると知り、6月21日開催の「ペナンよさこい」に出かけました。日本から「いおり屋」と「ソフトバンクよさこい部」の2チーム、タイとシンガポールから1チームずつのほか、マレーシア各地から26チームが参加しています。

 各チームともによさこいに欠かせない鳴子を使い、「土佐の高知のはりまや橋で・・・」と始まる、よさこい節やソーラン節がパレードとステージの会場に響きます。

 熱帯の野外イベントなので、夕方の17時開始で最後は日付が変わるくらいまで海岸そばの公園でやっていました。

 聞くと山崎英美さんという現地在住の日本人が、東日本大震災後のペナンのみなさんからのチャリティへのお返しとして2013年によさこいを立ち上げました。コロナ禍などの中断をへて、今年で10回目になります。日本人コミュニティの集まりと、よさこいの魅力にはまったマレーシアのみなさんが支えているようです。

 マレーシアチームの多くは、日本でいえば中学から高校にあたる、マレー系の中等学校の生徒たちで構成され、それぞれに工夫したよさこい鳴子踊りを披露していました。

 

宮崎のスナック文化

  岩崎久美子 (東京都 スローライフの会会員)

 仕事で5月末に宮崎市に3日ほど滞在。TVを見ると東京はひどい土砂降り、しかし宮崎は毎日、美しい青空でした。

 宮崎駅からホテルまでの大通りには、宮崎牛の焼肉屋、居酒屋などが多く、平日の夜とはいえ多くの人が行き交う活気ある宮崎の街に驚きました。ホテルに置かれた地元の情報誌を手にしたところ、宮崎市は人口比で全国一のスナック数を誇り、誰もが気軽にスナックに立ち寄り、ママと会話を楽しむ文化があることを知りました。その情報誌には、仕事帰りにスナックに寄って話を聞いてもらうとの若い女性の談話も掲載されており、スナックのママは、さしずめ市井のカウンセラーという感じです。

 「子どもの居場所」が必要との話は教育界でよく聞きますが、大人にも心理的に安らぐ居場所がどこかに必要と感じます。人は社会的動物なので、居心地の良い空間で誰かと気楽に対話し、「あっはっは」と心から笑いたい基本的欲求があると思うからです。セピア色の昭和の風景かもしれませんが、買い物かごを持って路地でおしゃべりをしたり、居酒屋で仕事帰りに飲んだり……。令和の時代、それに代わる「大人の居場所」が宮崎市にはスナック文化として存在しているのでした。

*写真は宮崎で購入したマンゴーと、iwanaga食堂のママ一押しのお菓子の田園「マンゴーどら焼き」

 

腐敗への抵抗

  高橋征吾 (東京都 スローライフの会会員)

 NHKで綾瀬はるかさん主演の「ひとりでしにたい」というドラマが始まりました。小さい頃にあこがれていた伯母が孤独死して腐敗して発見されたことに衝撃を受けたヒロインが「独りで死にたくない」と婚活に勤しんだ挙げ句、今度は終活に目覚めるというストーリーなのですが、コミカルタッチながらも時にシリアスで、観るものに極めて現代的な問い掛けを突きつけてきます。

 そんなドラマを配信で観終わった後、偶然目にしたのが同じくNHKの「クローズアップ現代」で、その日の特集は森友学園事件でした。もう昔のことと思う人もいるかもしれませんが、組織の論理が一人の人間を自殺に追い込んだ、忘れてはいけない事件だと思います。公僕としての矜持と使命感の高さゆえに苦しまなければならず、腐敗した組織への抵抗の末に命を落とした赤木さん。「腐敗」を拒否するという点で、前段のドラマのヒロインと共通点があるといえばこじ付けがすぎるでしょうか。

 臭い物に蓋をして忘却することの得意な私たちの国は、そして私たちは、たとえ孤独死から逃れられたとしても、果たして生き方として腐敗していないと言い切れるのか。国会で(少なくとも)118回、虚偽の答弁をした人物を国葬にして、果たしてそれで良かったのか。そんな問いをあらためて赤木さんに突き付けられた気がしました。

 

日鉄子会社USスチール これからが正念場

  太田民夫 (神奈川県 スローライフの会会員)

 日本製鉄による米USスチールの買収が決着した。新旧の米大統領を巻き込んだ買収交渉は紆余曲折の連続だった。一連の報道の中で、USスチールの工場写真に写った「エドガー・トムソン・プラント」を何度も目にした。

 エドガー・トムソンは19世紀中頃、米国の鉄道開発で激しい競争を勝ち抜いたペンシルベニア鉄道のCEOだった人物だ。なぜ製鉄所の工場名になっているのか。

 USスチールの源流はスコットランドからの移民、アンドリュー・カーネギー(1835-1919)が興した製鉄所であり、カーネギーが最も尊敬する人物であるトムソンをプラント名にし、今日まで生きているのだ。

 カーネギーは17歳の時、事務員兼電信技手として同鉄道に就職。管区長で退職(30歳)。その間、トムソンから経営管理と財務戦略を学んだ。そして鉄道に必要な鉄鋼が成長産業だ、と自ら製鉄所経営に乗り出す(1872年)。世界最大の製鉄所をつくりあげたカーネギーは1901年USスチールに売却した。

 今後、USスチールは日鉄の支配下で製鉄という毎日が地味なものづくりを続ける。カーネギーは自伝で「(企業は)自分より優秀な人材を集める」ことを強調していた。約2兆円を投じた日鉄の子会社USスチールはこれからが正念場だ。

*写真はNIKKEI LIVE(2025年6月18日)から

 

傘がない

  中野修 (大阪府豊中市 スローライフの会会員)

 雨の多い季節になると井上陽水さんの「傘がない」をふと思い起こす。1972年にリリースされた名曲である。2023年7月2日の「天声人語」でも取り上げられたが、この曲への私なりのイメージを加えてみる。

 人々を守り私たちを包む世の中の傘とは……。それは「平和」であり、社会権に基づく社会保障制度や社会福祉の仕組みであったのかもしれない。しかし、近年の行き過ぎた市場主義は、「格差社会」を拡大し、「公共の福祉」による経済活動への制約を急激に後退させた。そして、人々から大切な傘を奪い去った。

 今、世の中には傘がない。それでも人々は生きてゆかねばならない。誰に見守られることもなく、冷たい雨に打たれて生きてゆく。それはやむを得ないことなのか。失った傘を取り戻すことはできないのか。とにかく傘がない。

 一方、1971年に森進一さんが歌った「おふくろさん」……。「お前もいつかは世の中の傘になれ」と教えてくれた母親の真実が胸に響く。世の中の傘に集う名もなき者のひとりとして、数多の人たちと肩寄せ合って生きてゆく。これからもそうありたい。

*写真は柿の木に降り注ぐ強い雨。

 

折の中に宿る心の祈り~ORU-KOTO®~

  小松崎いずみ (埼玉県越谷市 スローライフの会会員)

 日本の伝統文化に、ものを贈る時に和紙で包んで、礼の心を相手に届ける作法があります。「折形」と言います。その見本帳を電子部品の加工技術を応用して形状記憶で作りました。名付けて「ORU-KOTO®」。人と人との繋がりが自然に生まれる、そんな商品にしたいと願い、ワークショップを立ち上げました。

 ORU-KOTOをデザインした大沼勇樹さん、北鎌倉ギャラリーえにしの細谷美刈さん、そして私の3人で知恵を出し合いました。文化人が多く住む北鎌倉で、現代風の折形を受け入れていただけるのか心配でしたが、多くの方の協力をいただき、2日間で20名の方にご参加いただきました。

 形状記憶なので山折り谷折りがすぐに確認できます。好きな和紙を選び折線をつけて見本を見ながら折形を折っていきます。ひと折り、ひと折り、心を込めて、ビシッと形が決まると気持ち良い。折りあげたものに装飾をするのがまた楽しい。

 書道家は「和」という文字を入れ、水彩画家は楮(こうぞ)の見える和紙に赤を添えてお祝い用にと、個性あふれる作品がたくさんできました。会場は自然と会話も生まれ、お弁当の包み紙でささっと折形を折るまでに上達した方が「これでお弁当代をお渡しするの、素敵ね」とほほ笑まれました。私たちが望んでいた風景を見ることができて本当に嬉しかったです。

 地域×文化×技術、かけあわせたもので新たな人と人を繋げることができる! 確信を持ちました。

 5月18日BSテレビ東京「グロースの翼」で紹介されました。YouTubeで配信中です。*写真は折形の作品。

 

7月20日はカブトムシ相撲大会

 京都府綾部市「水源の里 上原(かんばら)」では、放置竹林を伐採し、細かく砕いた中で、カブトムシを育ています。5月に子どもたちが幼虫を掘り起こし、それを自宅で育てた成虫を持ち寄って行う相撲大会。子供たちの興奮の声が聞こえてきます。どうぞ観戦にお越しください。

『スローライフ曼荼羅』

諸山宿舎

  野口智子(ゆとり研究所 スローライフの会共同代表)

 かつて、雲仙市の仕事をしたときに散々お世話になった地域おこし協力隊の諸山岳志(もろやま・たけし)さんが、いつしか結婚され、いつしか古民家を直して宿泊施設にされ、いつしか坊やを育てていました。すっかり地域に根差し、すっかり素敵なお父さんになっている。素敵なくらしだなあ、と思います。「暮らすように泊まる」がテーマの宿、1泊ですが、素敵な暮らしのおすそ分けをいただきました。https://noguchi-tomoko.com/post-10852/

■■つべ小部屋■■

日産は買わない

  つぼいゆづる (スローライフ瓦版編集長)

 日産自動車の車は買わないことに決めた。と言っても、そもそも20年以上前から自家用車を持っていない。老後の旅のために乗りたいと考えているわけでもない。だから買う気もないのに「買わない」という言い方はおかしいのだけれど、とにかく日産は絶対に購入しない。

 理由は内田誠前社長ら執行役4人が退任時に計6億4600万円の報酬を受け取っていたからだ。先日の株主総会の報道で知った。業績不振のため、今年3月期決算で6708億円の純損失を出し、世界7工場で2万人規模の従業員の首を切るというのに、その経営責任を負うべき執行役が、なぜ億単位の金を受け取れるのか。

 大赤字の責任を従業員に押しつけ、お金だけは懐に入れる。そんな所業が、なぜ、まかり通るのか。たとえ、その権利が認められる制度だったとしても、よくもまあ満額を、いけしゃあしゃあと受け取れたものだ。しかも、この点を株主総会で問われた内田氏は何も語らなかった、という。恥ずかしくないのだろうか。

 こんな会社の対応を労働組合は、なぜ制止できなかったのか。私が株主なら、返還請求をしたい。なぜ、世の中で「日産不買運動」が起きないのか。などと、つらつら考えていて、ふと思った。実はもう、こういう会社の姿勢、強者の強欲が黙認される社会になりさがってしまっているのか、と。

 先月、ドイツを旅したときに、シュツットガルト中央駅の近くの駐車場で、テスラ車に面白いステッカーが貼ってあった。

「I  BOUGHT  MY  CAR  BEFORE  ELON  LOST  HIS  MIND」

 トランプを応援したイーロン・マスクの車を買ってしまったことへの反省というか言い訳というか。こういう対応が、日本でもあればいいのにと思う。

<編集室便り>

▽7月15日は「おとなの食育」の「さんか・さろん」です。

 毎日の暑さのせいにして、ついつい食事がおろそかになりがち。食育というとすぐ子どもを考えますが、なるほど、まずは大人の食育、大事ですね。今回ご寄稿いただいた村井さんの「さろん」です。ご期待ください。

日時:7月15日(火)19時からzoomで

テーマ:「おとなの食育」 食育と地域社会

講師:村井康人さん(新潟市在住、リバース食育研究所、スローライフの会会員)

参加費:会員1000円、一般2000円。年間参加費お納め会員は不要です。

申込:7月12日(土)までにメールで  slowlifej@nifty.com

詳しくはこちらから→ https://www.slowlife-japan.jp/2025/06/30/%ef%bd%93-350/

 

▽この「スローライフ瓦版」にご投稿ください。

 毎月、第2、第4火曜日に配信しています。前週の木曜日が締め切りで、土曜日に編集作業をします。500字まで、写真もOK。

 巻頭にも書いたように、「私の暑さ対策」や「こんな涼み方あります」なども、どしどしお寄せください。会員のみなさまの投稿をお待ちしております。

メール  slowlifej@nifty.com

 

▽10月11日・12日は長崎県雲仙市でスローライフ・フォーラムです。

 早めに往復の交通手段を確保してください。秋の3連休なので、たいへん込み合っております。まずは一報くだされば、事務局がルートのご相談に応じます。詳しくはこちらから。https://www.slowlife-japan.jp/2025/06/08/%ef%bd%93-349/

 

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〒160-0022 東京都新宿区新宿2丁目12番13号

新宿アントレサロンビル2階「スローライフの会」

メール slowlifej@nifty.com 電話090-7433-1741(野口)

 

※ご連絡はなるべくメールでお願いします。

※活動詳細はホームページからご覧ください。

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