高岡フォーラム「ものづくり分科会」


<ものづくり分科会>
・テーマ:「こころと技を伝えるものづくり」
・日時:10月13日(土)16時30分~18時15分
・会場:瑞龍寺大茶堂
・登壇者:
コーディネーター:野口 智子(ゆとり研究所 所長 NPOスローライフ・ジャパン 事務局長)
パネリスト:山下 茂(明治大学公共政策大学院 教授)
高峰 博保((株)ぶなの森 代表取締役)
嶋 光太郎(高岡伝統産業青年会 会長)
富松 光香(高岡スローライフ逸品研究会 会長)
●野口コーディネーター
「スローライフ逸品とは何か?「高岡スローライフ逸品研究会」ではこれまでいろんな言葉が出てき。スローライフ逸品とは・・・①地域資源を活かしたもの②地球にやさしいもの③心と身体を健やかにするもの④生活提案のあるもの⑤物語と技を感じるもの⑥納得価格で買いやすいもの・・・。これらの要件を軸に、スローライフ時代の逸品とは何だろうかと議論したい」
―――と“こころと技を伝えるものづくり分科会”の導入を述べた。以下意見要約

●富松光香さん
「高岡スローライフ逸品研究会」は地元の中小企業で商品開発を担当しているメンバーが集まっている。ひとりで商品開発は直ぐに行き詰まるので、この会でアドバイスや冷静な視点を交換し、良い関係を築き助かっている。
これまでに開発したものは。刺身感覚で食べられる塩辛くない「越中刺身ぬかさば」。最初から切れているので即オードブルとして使える、糠も無農薬のものにこだわっている。コロッケでまちおこししている高岡なので開発された、地元の野菜やフルーツで作った食べ切りサイズの「越中高岡コロッケソース」。タイプがいろいろあり、セットでの販売が好評。錫100%のため自由に形が変えられる龍の置物「まげよドラゴン」。縁起物は毎年登場するが、これはユニークなもの。高岡大仏の焼印をした「大仏クッキー」。日本三大仏のうちの一つで、一番男前の大仏をもっと売り出そうと。クッキーそのものがおいしい。など、いろいろある。
私はものづくりには「生活提案」が大切と思う。自社の昆布商品の開発をする作業でも、商談の際にはバイヤーから具体的な食の場面のイメージを要求される。大手メーカーのものは、大量生産なので材料の出所も分からず逸品とは思えない。私たち中小企業は量より質を追及し、今後も地域資源を大切にストーリー性を持つ開発をしたいと思う。
自社製品の「白えび入黒とろろこんぶ」はがんばって作った。当初インパクトのある名前「ブラックとろろ」にしようとしたが、研究会で却下された。理由は、昆布は白いご飯に乗せて美味しくホッとする存在感が大切だ、と。納得した。色黒のコントラストのパッケージなど3年かけてで開発した。昆布のおむすびなど富山の昆布文化のストーリー性ある情報もパッケージに記載し、提案している。売れていてうれしい。
逸品要件として、もうひとつ加えるなら「美的感覚」、見た目の美しさも大事だと考える。

●嶋 光太郎さん
「高岡伝統産業青年会」は高岡で銅器産業に関わっている40才以下の若手職人48名の集団。自分たちが高岡に留まってものづくりを続けていくには、“ひっぱってくる”のが大切だ。
全国規模の催し「高岡クラフトコンペ」をサポートしている。高岡で物は作れるから、デザインや売り方の専門家を招いて引き込もうと始め、26回なる。日本3大クラフトコンペの内、他2つは衰退してしまったが、高岡は今もがんばっている。
「クラフツーリズモ」事業も。クラフト(工芸)とツーリズム(旅行)を絡めた造語。これまでの様に東京や大阪に行って物を売ってくるのではなく、都心の人が高岡に来てここで物を買ってもらう仕掛け。クラフトの工程には「原型」→「鋳造」→「磨き」→「着色」の行程があるがそれぞれの工場を見てもらい雰囲気を味わってもらう。「背景の見える物が買いたくなる」といわれ、行動する大切さを実感した。
富山大学の学生との交流も。キャンパスの中に「クリエイト」というサークルもできて、毎週我々と集まって交流している。
物を売るのは“こと”が大事。バックヤードを見てもらい、どう作られているかの流れを消費者に分かってもらう。「ことづくり」「ものづくり」「ひとづくり」が重要だ。
要件の「⑥納得価格で買いやすいもの」これは、自分たちには厳しいと思う。何故なら価格を気にし始めたら良いものは作れない。確かな技術で作るから中国製との差別化が出来ている、今後もそこは妥協したくない。もし、⑦を作るとしたら「ことば」、キャッチコピーが大切だと。自分たちは「柄は悪いが腕はいい」を売り物にしている。

●高峰博保さん
もともとデザイン事務所をやっていた。パッケージや冊子やパンフレットなど、販売促進の。今日は自分が手がけた、能登町の調味料「いしり」を例に話す。もともとは商工会議所の依頼で始まった、メイドインジャパンのものを海外でどう売るかという事業。NYのレストランに持ち込み使ってもらう、食べてもらうこともやったがなかなか浸透しなかった。
次にやったのは発酵食品に詳しい著名な方のインタビュー。地域の伝統的な調味料として、地元調理人に「いしり」を使った調理を実演もしてもらった。地元の人が良いといっているだけではなかなか拡がらないので、あえて影響力のある方に語っていただき広めた。結果、「いしり」を使った調理は飲食店でも宿でも広がり、生産量は増えている。湯布院の宿でも。2泊3日の発酵食品研究プランなどの産業的な連携を作ってサポートをしている。イベント的なフォーラムや食談もした。
「いしり」は3年熟成、地域調味料としてのスローフードの価値に加え、時間をかける、手間ひまかける調味料が地域の食のベースになっている、またそれを使っている飲食店となるとそれぞれの価値も高まる。
人が見えることがものの価値を高める、と思う。ものだけでなく、まちにもそれはいえる。高岡の魅力や価値を高めるのはここの人材。能作さん、がんばっている若手職人たち、現役の親方など人材の豊富さを多くの方に分かるようにすることだ。
味のあるものを作る人を巡る、『能登びと』」など、自分が作った冊子では人の顔を前面に出した。こうした人を巡るプログラムを作り、ちゃんとお金を取れる指導もさせていただいている。今、被災地・南三陸町でも同じようなことをしようと準備を進めている。

●山下 茂さん
自分は団塊の世代で消費者として期待されているが、物を増やさない生活“断捨離”(※ 不要なものを断ち、捨て、執着から離れること)にあこがれている。土産物を買うことは先ず無い。
それが今日は㈱能作さんを見学し、今夜のビールのためにこのカップを買ってしまった。何故買ったのか?工場を見せていただき、社長の思いを直接聞いた。広口のカップしかなかったが、社長が自ら口を狭めこの様な形を作ってくれた、これは世界にひとつだけ、まさに私にとっての物語が完成し、愛着が湧いてきたので、もう買わないわけにはいかなかった。(※錫100%のカップで変形できる)
置いてあっても確かに逸品だが、「買う」行動に移ったのはそこ。正しく「ことづくり」に引っかかったようなもの。こうした物にまつわる逸話や周辺のことは、大切なポイントだと思う。
ひとつ「スローライフ逸品」を考える上で整理しておきたいのは、そのものが作られるプロセス、過程、伝統などの背景がスローなのか。そのものを使えばスローな生活が楽しめる用品なのか。という区分けの議論はしておいたほうがいい。それぞれに考え、後に総合していく事をしないといけないのではないか。

―――コーディネーターが今回のフォーラムにあわせて開催の「スローライフ逸品大集合」に全国から出品されたリストとその中の何品かを実物で紹介。参加者の中からも紹介があった。
益子さん(札幌から)
北海道は歩いて地域の魅力を発見する「フットパス」の先進地。地元の根の曲がった竹の湾曲を活かした“歩く楽しみを呼び覚ます魔法の杖”を作っている。重さ約100g、自然に歩きだすという意味を方言でいう『アルカサル』が商品名。

濱田さん(栃木県足利市から)
CDショップと雑貨を販売。仕入れ販売以外のオリジナル商品をと卵の燻製を。日本最古の学校「足利学校」の“落ちない梅の木”にあやかり合格祈願のご祈祷も頂き、自分の名前を入れたネーミング「合格はまたまご」。売れ始めている。

佐藤さん(静岡県掛川市から)
栗焼酎「自ら」(みずから・おのずから)。栗の産地でありながら市民はその意識が薄く、栗園は荒れている。何とかしようと始めたのが栗焼酎づくりで4年目に。市民たちが栗園の下草刈り・栗拾い・栗剥きを行い、人も繋がっている。
―――その後さらに意見交換。感想もでた。
スローライフは単に昔や伝統を守るのではなく、時代と共に変化していく人の気持ちをしっかりつかむこと(富松)。「スローライフ」に興味は無かった。話が深まるにつれ自分たちがやってきたことはスローライフだったのだと気付いた。また、この催しに県外から多くの方が集まっていただいて、そのことが嬉しい(嶋)。来た人が高岡の中で濃い時間を過ごせるか、ゆったり過ごせるプログラムがあるか。情報発信はきっかけで、直接出合い、興味を湧かせる「2WAY」が大事。顧客を持っている観光業者と、地域の人材が繋がること。ソフトな人のつながりを作って行くことが、新幹線開業云々より長期的な効果がある(高峰)。要件を満たさなければ「スローライフ逸品」といわないのか?今後、この運動としていくのならば、細かな定義を作ってしまうよりも、おもしろい!行ってみよう!こそが大事、力になると思う。また、その物が何処で生まれたのか、何処で作られているのが、相乗効果で街と物のプラスになる。例として「ルイ・ヴィトン」がある。あれはパリだから売れた。地域と物の背景・ストーリーが一体化することも大事だ(山下)。イタリアでスローフードを起こした方は「スローフードは関係性なのだ!」と明言した。土地・物・自分、それらの関係性を生み出してくれる物が「スローライフ逸品」なのだと感じた。(会場から)

―――「スローライフ逸品」は多様だ。15年前に商店街おこしとして逸品運動を始め、ことばの普及から地道に続けてきた。昨今では、「逸品」が軽々しく使われるようになっているが、正しい生き方、スローな暮らし方に繋がる、地域・世の中が良くなる為のアイテムであって欲しい(野口)。と締めくくった。