2012高岡フォーラム報告「全体会・パネルディスカッション」


○テーマ:「逸品を育てる まち・技・こころ」
○日時:10月14日(日)13時30分~16時00分
○会場:ウイング・ウイング高岡 4階大ホール

○登壇者:
<開会挨拶> 富松光香(「スローライフ逸品フォーラムin高岡」実行委員長)
<キイノートスピーチ>
神野 直彦(東京大学 名誉教授、スローライフ学会学長)※パネルディスカッションのパネリストも。
<分科会報告> 篠田伸夫・野口智子
<パネルディスカッション>
コーディネーター
増田寛也(野村総合研究所 顧問、東京大学公共政策大学院 客員教授、スローライフ学会会長)
パネリスト
中村桂子(JT生命誌研究館 館長)
能作克治(㈱能作 代表取締役社長)
川村人志(高岡商工会議所 会頭)
髙橋正樹(高岡市長)
<閉会挨拶> 川島正英(NPOスローライフ・ジャパン理事長)
<司会> 長谷川八重(NPO法人スローライフ掛川)
○参加者:150人
○内容:(要約)
<キイノートスピーチ>
●神野直彦さん
・テーマ:「ものは時代を語る 人をつなぐ」

※別途こちら↓をご覧ください。
http://www.slowlife-japan.jp/modules/bulletin1/index.php?page=article&storyid=38
<パネルディスカッション>
※㈱能作の錫製のカップで高岡の水を飲みながら。
・テーマ:「逸品を育てる まち・技・こころ」
●増田コーディネーター
全国各地でのこのフォーラムはスローライフ学会会員にも楽しみな会。東日本大震災後、人と人の絆が大切と実感しているが、こういうフォーラムで高岡のものづくり、まちづくりに何がしかのヒントやサジェスチョンになればと思う。
会場ホワイエ「スローライフ逸品」の展示の中で、高岡市長賞のペレットストーブを例に「スローライフ逸品」の6つの要件紹介すると。「地域資源」については、森林資源と銅器の技術を活かしている。CO2を増やさないので「地球に優しい」。人間は火の燃えている所に集まる習性があり、家族が集まり、家族の会話も生まれて「心と身体を健やかにする」。高岡は冬寒いところなので「生活提案がある」。そして、「物語と技を感じる」。「スローライフ逸品」の要件にぴったりと思う。
―――まず、キイノートスピーチを導入に意見を。そしてものづくりについて。
●能作克治さん
ものづくり、人間の根底についての話は参考になった。明日の朝礼で職人たちに「君たちの作業はミューズの神に捧げるものだよ」と伝えたい。私どもの新しい商品のものづくりということではデザインがその根底にある。土器の模様もデザインです。デザインは時代を捉えるもの。当社は金属素材の鋳物をやっているが、素材の一番いいところを引き出そうとしている。
また、私どもの会社見学をやっている。倉庫で木型を並べているが。見学者は「美術館みたいだ、素晴らしい」といってくれる。これは、高岡市全体で可能であり、そうした体制を整えることが全てにつながると感じる。
●川村人志さん
文化財保護法に「文化的景観とは暮らしと技が醸し出す景観」とあるが、今日の話を聞いてこの文言は当たっていると思った。心に染みるようななお話だった。
いま話題になっている東京駅は5年間かけて再生したが、ここに当社の製品が使われている。再生事業の基本方針は、駅舎の姿を創建当時に戻し、重要文化財の価値を損なわず修復する。そして100年先まで活用する施設に、ということ。建設当時の丸の内のまちを語ることに携われて良かった。
建築関係の仕事の場合、仕様や指定材料、設計図に基づくが、先の三つの方針を実現するため、当時の建物の木の風合いに近づけるために、岩手銀行や富山銀行を何度も見に行って、いろいろと考えた。そもそも、あそこに使われていたサッシがアルミだったことや、ましてや私どもの製品だったとは知らなかった。そこに携わることができ、ものづくりをするものとしては、幸せな経験だった。
●中村桂子さん
20世紀は大量にものをつくった時代。どうもおかしい、こころだ、と言い始めて、「もの」か「こころ」か、となったが、そうではない。南方熊楠は「もの」という円を描き、一方に「こころ」という円を描いて、交差した部分に「こと」と描いている。私は生き物を研究していて、「こと」というのは、動詞で「生きている」ということではないかと思っている。「心を込めてものをつくる」ことが「もの」を生かすことになる。「もの」をつくり、人も生き生きする。そうすると物語も生まれる。「もの」か「こころ」かというのをやめて、これを繋げていくのが「逸品」かなと思う。
「ものをつくる」については、気をつけたいことがある。「自動車をつくる」といったら、何から何まで自分の思い通りに組立てつくるという意味。ところが「お米をつくる」というが、お米はつくれない。稲を育て、その稲がお米を実らせてくれる。それを私たちは応援している。「子どもをつくる」という。でも子どもをつくれるわけがない。機械的なものをつくるということとは違い、自然の力のおかげでつくれているということを忘れてはいけない。
20世紀はあまりに自分中心主義だったので、なんでも自分がつくっていると思いがちだが、私たちがつくっていると思っているかなりの部分は、自然の力を借りている。自然を活かしていることを忘れないというのが、逸品をつくるということではないか。
―――「ものづくり」について実際に仕事にしている方からさらに。
●能作克治さん
伝統は守るものではない、つくり出すもの。今やっていることが、100年後の伝統になるという意識で新しいことを開拓している。
日本の「ものづくり」は世界が求めている。中国でも「もの」「こと」「こころ」の三要素を欲しがる人が増えてきた。「もの」の背景にある「こころ」「こと」を。もう一つ、心がけているのは、世界規模で考えて、地方で仕事をするということ。作る拠点は高岡以外にない、ということ。「こと」「こころ」の部分がこの産地に支えられているいことが、地場産業の強み。作る工程に必要な職人さんが揃っていて、高岡の中で完結できる。高岡を「ものづくり」の拠点にする気持ちは忘れずにいたい(能作)。
●川村人志さん
アルミ建材の業界は、高度成長の流れの中で、大量生産の方向で成長してきた。効率化にこだわりすぎた。その反省から、こころの問題が言われるようになった。「ものづくり」のあり方も変えていく必要がある。
節電にアルミ材料は貢献しやすい。もともと地球に優しい金属。最初は電力がいるが、リサイクルにはあまりかからない。缶は95%リサイクル、建材業界でも、サッシからサッシへリサイクルしつつある。環境負荷低減に向けた商品づくりという方向に変化してきている。密閉したビルなどで年間機械空調をしているが、自然の空気を回す工夫を加工しやすいアルミでやろうと知恵を絞ってもいる。(川村)
―――増田さんと髙橋さんのやり取りで
●髙橋正樹さん
「ものづくり」のベースは、まちの生い立ちに遡る。いろいろと革新はあったが、人を育て技術を受け継ぐことは、高岡の「ものづくり」欠かせないファクターだ。現状は、伝統の技術を受け継ぐ人がいない。高齢化してギリギリのところ。そこで、プログラムの一つが、基礎的な技術を習得すると、マイスター制度のようなもので職人さんに預かってもらって親方と一緒に仕事をする。一方、いま文化財の修理という大きな業務分野ができつつあり、そこに親方と一緒に行ってもらう。木工もあれば金工もある。そういう産業が成り立つ。
もう一つは、20数年やっているクラフトコンペ。全国から応募があり、高岡の伝統産業青年会メンバーの若手職人と地元学生がペアで作品をつくり、賞を取った。学生も、職人と一緒に技術を学べるということで喜んでいる。金屋町の一角に、若手のクラフト作家たちが集まって製作活動をしている場所がある。富山大学の芸術文化学部も、技術を身につけようと頑張ってくれている。彼らの受け皿として工房づくりの手伝いをしたり、技術習得のコースを作ってこれらをセットにできないかも考えている。
高岡のものづくりはチャレンジング。銅器や鉄からアルミに変わるときも挑戦した人たちがいた。DNAがある。そういう若ものを育てていきたい。もう一つ、全小学生たちに鋳物や螺鈿体験をさせている。単に体験でなく、本物の職人さんたちに直接教えてもらう。プロの技術を何か受け止めてもらいたい。自分たちのまちにはこんな素晴らしい技術があるという誇り。自分がつくったものは恐らく一生ものになる。そこを通じて、いろいろなことにチャレンジして欲しい。
―――コーディネーター、パネリストからの質問に髙橋さんが解答。金屋町の入口の公園の子ども達の作品が興味深かったが。
●髙橋正樹さん
工芸高校もあり、高校生たちの作品や大学生の作品、プロの作品を美術館に並べて見せるとか、マインドを育てていきたい。
―――授業でやるのは相当の工夫が。
●髙橋正樹さん
構造特区で挑戦したいということで、いろいろプログラムを作ったのがきっかけ。学校の先生も最初は戸惑われたが、いまは大変協力的。ものづくりデザイン科としてやっている。この分野では、ほかにはあまりないかもしれない。
―――高岡は日本で祭りの回数が一番多いのでは。
●髙橋正樹さん
一番有名なのは、5月の山町の御車山祭。6月は金屋町の御印祭、8月は七夕祭、9月10月はクラフト祭と万葉朗誦の会があります。
――――「まちづくり」について
●中村桂子さん
高岡が、本当に素晴らしいまちだということがわかった。自然を生かすということに食べ物がある。昨晩の食事が印象的だった。新幹線が開通したら、あのようなお弁当をつくられたら。皆さんは当たり前と思っているかもしれませんが、東京ではあのように美味しい里芋は食べられない。ぜひ昆布を活用した駅弁を作るといい。食べ物をつくることはものづくりの一番基本。それがすごいというのは良い。
川村さん
高岡の食はまだまだ。埋もれている、おばあちゃん達の味のコンテストなどをやっては、と思う。
高岡を初め富山県の西部は歴史的な遺産が多いが、これをどう活かすか。「まちづくり」は住んでいる人がやらなければいけない。これは自分のまちなんだ、と思うことがおもてなしの心を芽生えさせる。私が商工会議所の会頭になったときに旧町名の復活を始めた。仙台には旧町名のまちがたくさんある。ものづくりのまちとして鍛冶町や染師町とか。歴史を物語っている町名がたくさんある。高岡もそれを売りにしてはどうか。広がれば、皆で良いまちにしていく機運がうまれるのでは・・。
●増田寛也さん
復古主義的に旧町名を復活させるのでは長続きしない。色んな人が関わって伝統産業が成り立っているという物語のようなものが旧町名に反映されている。そこが頭に入ると、旧町名の復活が、高岡のものづくりの一連の歴史を理解するのに必要だとわかる。伝統産業を中心にして、まち全体がそういう気持ちで取組むことで、高岡の力を強くするとことにつながる。
―――最後にパネラーから一言づつ
●能作克治さん
高岡・富山で1500人くらいの子どもたちが見学に来る。高岡には良い素材があると市民の方はあまり意識されていない。子どもたちが帰ってお父さん、お母さんに話してくれると、市民の意識が変ってくるだろう、と期待している。子どもたちも大きくなったときに、高岡のことを自慢するようになる。高岡ではヨソモノのことを“旅の人”というが、私もヨソモノの一人。私の目でみると、逸村逸品運動を実行するためには、もう一歩踏み出しが足りない。もう一歩踏み出して見ると、地元の良いところがものすごくよくわかる。そうすれば全てが変わると思う。
●川村人志さん
私も“旅の人”で、思いは一緒のところがある。良いものを持っているけれども、それを発信しよう、発展させようというものが足りない。大きさや有名さに満足している。三大七夕祭りといいますが、仙台は3日間で230万人の観光客、平塚は160万人。高岡は何万人ですか、と聞いても回答すら出てこない。良いものがあるのだから、もっと踏み出せばいい。
●中村桂子さん
技術関係の友人たちとの最近の話題。東南アジアの若者たちは元気なのに、日本に帰ってくると元気がない。ところが、実際作っているものを見ると絶対に日本のものが良い。高岡の「ものづくり」のやり方を上手に進めていくと、日本のこれからが見えてくるような気がする。
朝、まちのウィンドウにたくさん伝統工芸品が飾られていて、面白いなあと眺めて歩いた。こういうところを伸ばすと、日本のこれからの一つの方向になるかと、大いに期待する。
●神野直彦さん
地域の経済や社会は、住んでいる人間の力でしかない。これは、チャスキンという人の概念。地域力は、その地域社会に生じた共同の困難や不幸を解決する能力が、その地域社会にどの程度あるかになり、人々の結びつきが重要になってくる。一人一人の能力を引き上げると同時に、その結びつきが大切。銅に携わっている人々と、漆器に携わっている人々がうまくやれば素晴らしいものができるのでは。高岡商人という優れた人たちと、職人さんが協力をしあうともっと素晴らしいことができるのでは。
伝統は作るものだということを感じていたが、地元のお二人の意見を聞き、お二人の指導でうまくいくのではないか、と感じた。
スローライフだが、イタリアでスローフード運動が起こり、これを食生活に限るのではなく、生活のあり方全体、まちのあり方全体まで広げていこうという運動が起きた。「チッタスロー」協会。これに参加する条件が難しい。環境対策ができているか。地域の価値を高めるインフラが整備されているか。自然なものづくりができているか。地域の伝統的な生産物を保護しているか。最良のもてなしを追求しているか。味覚の教育をしているかなど。この協会に高岡が加盟するくらいの意気込みで、スローライフ運動と逸村逸品運動を展開してほしい。
―――コーディネーターから締めくくりとして
●増田寛也さん
逸品にこだわってこれからもどんどん発信してほしい。ものづくり分科会でパネリストの山下茂さんが「スローライフ逸品」ということはつくる工程のスローライフなのか、出来上がった上でスローライフ生活に役立つものか、きちんとわけて考える必要があると語った。いずれにしても、高岡の取組ではクリアされていると感じた。「スローライフ逸品」について、つくる工程なのか、できあがった機能なのか、その両方を満たすことが逸品の価値につながるということを、考えておく必要がある。
高岡市民としての誇りや高岡市への帰属意識を、「スローライフ逸品」をつくる地域だということによって、もっともっと高めていくことができる。おもてなしのこころもあふれるほど湧いてくるように感じる。今やっていることに自信を持って、誇らしく思ってほしい。これからのたゆまぬ努力によってさらに魅力が高まることを期待する。
―――感想として
●髙橋正樹さん
ものは技でつくるが、高岡の歴史の中で磨かれ、高岡という地で育てられて生まれた。いま「磨く つなぐ つくる」というキーワードで、総合計画をつくっている。事柄、技、あるいは人を磨いて高めながら、それを結びつけてつなぎ合わせることによって、新しい価値をつくっていけるのではないか。高岡の地、歴史で磨かれた「こころ」というものが「もの」と結びついて、高岡ならではというものを打ち出して行く。それが価値を生む、評価を受けるということになるのではないか。これからは、結果ではなく、そのプロセスを見せ、プロセスを大事にしていく。それは高岡でなければ見られない、結果として高岡に来ていただくことになる。そういう高岡をアピールすることが大切ではないかと考える。今回のフォーラム、スローライフが目指しているものは、高岡でいま実践されつつある。また、高岡にとって大きな課題でもあると感じた。