4月の「さんか・さろん」は皆でフクシマを見つめました。

2024年4月16日・138回の「さんか・さろん」を行いました。講師は写真家・金井紀光さん(現代写真研究所講師)、テーマは「フクシマを見つめて」。28人がお申込でした。2012年から今年の3.11まで、金井さんが撮られた写真のごく一部39枚を解説とともに、みせていただきました。南相馬市、浪江町、楢葉町、富岡町、双葉町、大熊町など。ニュースなどではなかなか伝わらない、感情や雰囲気、風や音、臭いまでが、それぞれの作品から伝わってくるようでした。地震、津波だけでなく、原発による被害を受けた人々・地域がどうなっていくのか。今、どんな光景がひろがっているのか。忘れがちなことを思い出す貴重な「さろん」となりました。以下、金井さんが話されたことの抜粋と、参加者からの感想抜粋です。

~金井さんから~

「東京・四谷にある写真学校の講師をやりながら、災害の現場やフクシマ、ヒロシマについてのドキュメント的写真を撮っている。今日は2012年から今年までのいくつかの作品をお見せしながら、現場で見て、聞いて、感じて、考えたことを話したい。

25年前までは静岡に住んでいた。その頃、筑紫哲也さんの「ニュース23」という番組で、静岡の山奥で電気を使わないで暮らしている若い夫婦と子供がいることを知った。翌日から彼らのことを2年位撮らせてもらった。この時、その若い母親が『原発で造った電気は買いたくない』とはっきり言われた。自分にはショックで、そうか電気は買うものだったんだと気づいた。自分が広島出身ということもあるが、この時から反原発という立場をはっきりさせている」

(南相馬市の小高の町並み。撮影・金井紀光)

「この写真がフクシマで最初に撮ったもの。地震の被害はそれほどなかったが、原発から20キロ圏内で町民全員が避難したところだ。2012年1月、まだ入れなかった時期だ。誰もいない街に信号機だけが煌々と光り、時々パトカーが通るだけ。誰もいない街というのは本当に不気味だった。」

~写真の解説の後の話し合い抜粋。〇印は参加者から。■印は金井さんから~

〇ネットやテレビでしか情報がとれなかったが、ちゃんとフクシマの本当のことが知れてよかった。足を運ばれるきっかけは?
■いい写真を撮りたい。それと自分で見てみたいと思う。
〇自分がこういうことから遠ざかっていたなと思った。福島のなかでも温度差があるのでは。
■浪江町は人口約21,000人だったのが、1割が帰っている。双葉町は7千人のうち100人ぐらいしか戻っていない。特急が停まる駅でも、正月に双葉町で降りるのは自分ぐらいだ。そういうところと、仙台に近い方とでは、被災地でも全く違うと思う。
〇被災者を撮るときに大切にしていることは?
■こちらが嘘をつかないことだと思う。私は報道機関でもなく、フリーで、立派な人間でも何でもない。被災者をよく撮れる、とも言われるが、それは遠くから言う意見かと思う。現場に行って挨拶すれば知り合いになる。逆に、良く聞いてくれたと言って、向こうから詳しく話してくれる人が多い。
〇カラーと白黒との作品の違いや意図は?オリンピックの聖火は撮らなかったか?
■特に深い意図はない。タイミングが合えばと思ったが撮らなかった。
〇金井さんには津波や原発の災害がメインだと思った。
■誤解を恐れずに言えば、自分は東日本大震災の被災地でフクシマ以外に興味がない。天災と原発事故は違う。復旧、復興は大事だが、復興して良かった良かったという訳にはいかない。そこで起きたことが無かったことになってしまうのではないか、と心配だ。何があったのか、を人に伝えたい。ただ、自分のなかでも矛盾を持っている。北の方に旅をして、駅で降りて1時間歩いても誰にも会わない土地などに行くと、こういう土地の首長なら原発を誘致して少しでも町が豊かになれば、と思ってしまうだろう。それほどに寂しい土地は現存する。
〇だんだん報道の熱が薄まってきているときに、こういうサロンで皆さんとフクシマのことを共有出来て良かった。動画で伝えるよりも、白黒だったり、全部がみえない方が訴求力があるのではと考えた。
〇時系列で見せてもらって考えさせられた。いま、人っ子一人いない街に、イルミネーションが光っていることが怖い。人はいないけれども、ここに戻って来たいと思っている人たちの気持ちがその街には詰まっているはずだ。そういうところを作ってしまった、また作るかもしれない、ということが恐ろしい。
〇今回、金井さんのおかげで、原発の人災と、天災の違いが確認できた。震災後「花は咲く」という歌が広まったが、そのアンサーソングとなる「花は咲けども」という曲を皆さん検索して、知ってほしい。
■いま、写真専門誌などがなくなり、作品の発表の場が少なくなっているなかで、このような機会がいただけてうれしかった。

(下の写真は、双葉駅前。撮影・金井紀光)