2月の「さろん」は『空中の村』を知りました。

第126回 「さんか・さろん」は2月21日、奈良県十津川村から、『全く新しい森林アウトドア施設“空中の村”の挑戦』をテーマに、フランス人のジョラン・フェレリさんにスピーチをしていただきました。
ジョランさんは「空中の村」運営管理者、フェレリ合同会社代表です。「スローライフ・フォーラム㏌十津川」の分科会にもメンバーとして出席していただきました。

「空中の村」とはどんなところか?なぜそれを作ったのか?たっぷりとお話いただきました。

ジョランさんのお話の要約です。(事務局)

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「空中の村」は日本初の“樹上アウトドア施設”。キャッチコピーは「山奥で過ごす大人の遊び場」。一日中森林の中で遊べる施設だ。2ヘクタールの敷地で、最高で地上12メートルある。村が所有していた既存の『21世紀の森』を使っているので、シャクナゲの季節には花見も楽しめる。

 

※画像の園内マップを参考に、①木々を渡らせて張ったネットの橋を歩く「ぐねぐね橋」、②弁当や地元の手作り菓子が食べられる樹上カフェ「ピクニックエリア」、③昼寝、読書やパソコンを持ち込んでネットの上で過ごす「読書のんびり屋」、④ネットの床「鳥かご」、⑤景色が楽しめる「展望エリア」がある。

私は1992年生まれの31歳。生まれ育ったフランスのアルプス山脈は人口3500人の田舎だった。10代の時、すでに将来は林業をしたいと思っていた。フランスの大学で経営を学び、在学中にアフリカやフィンランドへ留学生として渡った。学費が無料のフランスでは、良い仕事を求めて学生の8割が大学院へ進学するが、私は良い文化に触れられるならどこの国へ進学しても良かった。2014年に来日。「関西学院大学」に入学し、経営学を学んだ。卒業後は日本に残りたい理由もあって、日本の林業企業へ就職活動をしたが苦戦した。教授の紹介で小山手修造村長(当時は副村長)と知り合い、2016年11月から奈良県十津川村へ移住した。地域おこし協力隊として活動を開始し、林業の現場を学んだ。活動の中で、林業の目的は生産のみならず、防災・生物多様性の維持・森林のレクリエーション機能を発揮させるなど、ヨーロッパ式の森林管理方法も学んだ。同じ頃、村としてもフランスへ視察に行くなど、森林管理を模索していた。地域おこし協力隊の3年の任期を終え、「空中の村」の設計及び建設に3年かかり、2020年4月にオープンし、運営している。

 

大事なコンセプトは大人も楽しめることだ。

私は、十津川村で起業を考えた時、2つの事に気づいた。1つは、日本の山は活用されていない。勿体ない資産だ。新しい利用方法を探してそれを広めたい。2つめは、日本の大人は山・森で遊ぶ感覚を持っていない。ならば、山を活用して大人が遊べる場所を作りたいと思った。
建設にはフランスから11名の技術者を呼び寄せ、たった6週間の施工で完成したが、それを支えてくれた十津川村の住民とのコラボレーションが励みになった。

オープンしてすぐコロナ禍だ。メディアでも取り上げられたのに、思ったほど人は来なかった。約3年間の実績で、損益分岐点の「年間来場者数5000人」は超えたものの、どうしようもない課題も見えてきた。まず、施設内のキャパシティが少ない。屋外は天候に左右され、雨や冬季は休園となり稼働率が低い。高齢者にはちょっと難易度が高いようだ。また、アクセスの悪い田舎まできて、滞在時間の平均は2時間半だ。これらの解決策として今後の方向性を考えた。宿泊型の施設になるよう計画中だ。すべてが木の上に浮いている日本初のキャンプ場を目指したい。最大12組を受け入れられるように準備を進めている。

 

フェレリ合同会社は、日本の他地域でも同様の施設建設を請け負っている。フランスの森林アスレチック施設の建設会社とつないで、九州や長野県でも施工した。また個人向けの空中施設『ソラカゴ』もある。建設の条件はあるが、スキー場の夏場利用など、眠った価値はたくさんある。調査からオープンまで約1年間で、予算はおよそ5000万円だ。

フェレリ合同会社は、「木を大事にする」。柱にする木はボルト式で器具を固定し、定期的に樹木医の観察を受けている。また「地元の資源を使う」。空中の村は96%が十津川の杉だ。などを経営理念としている。

「空中の村」https://kuuchuu-no-mura.com/

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経営学を学んでこられたジョランさんのお話は分析が鋭く、また、個人としての心の動きなども図解にして楽しくお話下さいました。

この後の参加者との意見交換では、

地元や県内から、「30年間管理費だけを払い続けていた公共の施設が、民間からの提案で新たな“拠点”となって甦った」「ワーケーションの実例として、自分にとっても本当にあって嬉しい施設だ」「地域おこし協力隊の成功事例としての見本的活動だと自負している」「県内にも“拠点”をつなげる支援を」などの意見が出ました。

「なかなか十津川まで行けないので東京近郊にも欲しい」「我が町にも!」の声に、新しい建設候補地が挙がりました。

また、「高所恐怖症でも大丈夫なのか?」「ぜひ20mでも試して!克服できるかも」と。

空中アスレチックが盛んなフランス。そもそもの始まりは90年代、軍隊の訓練用だったそうです。それが、身体を鍛えられるスポーツ施設として、そして一般向けとなり、今では国内に数百ヶ所もあるそうです。人工物建てず立ち木を使う。20年間の試行錯誤を経て、森や自然を愛する文化によって広まっているそうです。日本の山は、野生動物との遭遇や、虫、険しい足元など人を寄せ付けない悪条件はありますが、“空中”ならばいろんな問題を回避して山での遊びが出来そうです。

日本に来日してわずか9年。流暢な日本語と日本の文化に溶け込みながら、森林の新たな価値利用を提案してくれたジョランさんでした。

35名の参加者でした。

 

講演部分のみこちらのYouTubeでご覧いただけます。