生きものという視点から考えるスローライフ、中村桂子さんのサロンでした。

2023年12月19日(火)に第134回「さんか・さろん」が行われました。講師は中村桂子さん(JT生命誌研究館名誉館長・スローライフの会共同代表)。テーマは、「これからのスローライフ」“私はこう思う”。~スローは「自分の体の中にある時計に合った速度」だと思うのです。それぞれの方が自分はどんな時計を持っているかを考えたうえで“私はこう思う”を出してくださるとよいと思っています~と、中村さんから事前のご案内があり、それぞれのスローライフをお話いただきました。


【中村さんのお話】
スローライフという考え方はたぶん“スローフード”からで、マクドナルドとかのファストフードに対してでてきたのでしょう。そしてスローというのが食べ物だけでなく、社会のありようにも影響力を持つようになっていきます。ファストフードとはいったい何?というと、もちろん「早い」ということですが、それだけでなく「均一」、どこでも同じものが提供される、という意味があります。もう一つは「手をかけずに」すぐ食べられるということ。早くて均一で手がかからない、これを言葉にすれば“「便利」。便利というのはありがたいこと、そして思い通りにできるということです。

例えば昔は竈で炊いていておこげもできれば、火のあるうちは常にみていなくてはならなかった炊飯。それが今では、ボタン一つでご飯が炊ける炊飯器があり、これは便利なことです。「早くて均一で手がかからない」思い通りにできるというのは実は機械にすごく合っていて、生きものはそうではない。便利で有難いという考え方が人間に及んで、子どもまで「早く手がかからず思い通り」になるのがいい子、ということになるとちょっと怖いですよね。早くといっても、うちの子どもだけ早く育ってというのは不可能で、子どもが育つというのにはプロセスが大事。急に1歳から10歳になっても意味がありません。ファストだけだと、プロセスを忘れてしまいます。

生きものは「多様」で均一ではない。「手がかかる」というのは面倒くさいだけれど、子どもを育てるのも、花を育てるのも手がかかる事をしないといけない。そのことが「喜び、悦び」になるのです。機械の場合は手がかかるのはダメで、生きものは手をかけることに喜び、悦びを感じる。ファストばかりだと悦びを否定することになります。そして、手がかかり思い通りにならない、ということには「思いがけないこと」があります。機械には思いがけないことがあってはいけないのですが、生きものには思いがけないことがある。速くて結果をすぐにみるという機械と、プロセスを楽しむ生きもの・・機械と生きものは全然違う。でも今、生きものも機械のようにしがちです。これが私が気になるところです。


生きものを学問的にいうと・・・①多様性(あらゆるところに何千万種類もの生きもの)。②DNAという40億年前に生まれた小さな細胞である祖先はひとつ。③それぞれが40億年かけて進化してきた歴史をもつ。高等、下等ということは一切ない。というのが生きものの世界の基本です。
「生命誌絵巻」この扇型の図をご覧ください。ここでスローライフとして大事なのは人間もこの絵巻の中にいるということ。SDG’s、生物多様性といいながら、人間は我々は偉いとか、地球に優しくしてやろうとか、どうも上からみている「上から目線」です。「中から目線」が大事で、生きものに対して中から目線で考えるということからいろいろなことがでてくるのではないか、それが大事なことです。人間は科学技術によって便利になるのがいい、資本主義でお金を動かしていけばいい、と今の社会ではどこの国でも考えられていますが、それは自然を破壊していくことで、異常気象もこのようにしているからです。私たちも自然の一部なのですから。


コロナ禍で人間の関係が途絶え、関係性がとぎれ、とにかく急いで、ということがあり、かなり人間が壊れていると思います。環境破壊といいますが、人間を壊すようなことをしているのがもっといけないと思います。スローライフというのは、人間が壊れないようにしましょうよ、ということかな、と。自然は美しくも怖いもの。地震や津波、そこに人間が作った原発があったから破壊はより大きくなったのです。

生きものに違いない人間には「思いやり」「共感する心」をもつという特徴があります。例えば「共食」。今「孤食」傾向があり、食べ物のことがおかしくなって、これも人間が壊れることにつながるひとつかと思うのです。

「私」というのは「私たちの中の私」で、一人だけの私はいないのです。「私たち生きものの中の私」という感覚をまずもってほしい。人間はホモサピエンスという一種類、どの国の人も皆同じ。また人間は「共感力」をもちます。私たち生きものの中で共感をもっていたら、戦争はできないと思うのです。この感覚になると、地球が宇宙がとても近くなっておおらかな気持ちになれます。そして人間にしかない力に「想像力、イマジネーション」があります。これら特徴的な能力をもつのが人間。生きものということから考えると、時計というのは時間だけでなく、プロセスを考えるとか多様とかを含めた自分の時計をもつということ。それが私の思う「スロー」です。

【皆さんからのお話】
「人間は生きもの」「ファストとスローの違い」などの基本的な中村さんのお考えを伺った後、
参加の皆さんから、それぞれの思いをうかがいました。

俳句を作って読み上げた方、最近読んだ本から言葉を引用された方、ご商売上でお客様に説明する生きもの時間について説明された方、今の自分の信条を述べた方、今日「生きもの」という言葉をいただき良かったと感想を述べた方、「なんで猫には優しくできるのに、子供には厳しくなるのか」と悩み相談をする方、などなど、多様なご意見、お話が出ました。あっという間に2時間経ち、21時近くに・・。

最後に風邪をひいていて発言できない方から「また、こういう機会を作ってください!」と書いた紙が示されて、うれしい終わり方となりました。

※中村桂子さんのお話部分だけYouTubeにあげています。ご覧ください。